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第110話(第4章)
待ちに待った両親が宮城に参る日が来た。晩餐会の予定なので、留守にする時間は充分有るだろう。マサを始めとする上級の使用人達も同行する。勿論同行と言っても、陛下や東宮殿下と会う事は出来ない。使用人達に与えられた部屋で食事を戴く程度だ。
それでも、宮城の二重橋を渡る事が出来るので、栄誉な事には間違い無い。皆興奮している。
父母は着ていく服の事で頭が一杯の様だし、居残り組の使用人達もその準備に追われ忙しい。
学校から帰って来ると、自分付きの静さんに変わった事は無かったかを確かめる。
片桐家の事は話題には成っていないらしい。あくまでも彼女の知りえた事だけだが。そして、片桐が来るので今日は誰も自室には入って来ないようして欲しいと厳命した。
夕闇の帳が下りる頃、カーテンを開け、自分の部屋の在り処かが分かる様にする。それからは落ち着きが無くなり、本を読んで見ては放り出し、彼の姿を思い出して居た。
彼の容貌も頭によぎったが、身体の線の事も頭から抜け出さない。肩幅は有るのに、腰周りは、肩幅に比べると随分華奢だった。肩から腰にかけて流線型をしている。
それが堪らない色気を感じさせる。
そんな事を考えて居ると、窓ガラスに小石か何かが当る音がした。慌てて窓際に近付くと片桐が、木の枝で自分の体重で折れない枝を選んで座っているのが見えた。ベランダからは少し距離が有ったので、手を伸ばして彼の手を掴んだ。そしてベランダに引き上げる。
今日の彼は制服では無く、動きやすい為だろう、白いシャツに黒いズボンを穿いていた。
片桐ははにかんだ笑みを浮かべ、部屋に入って来た。部屋を見渡すでもなく少し茶色がかった瞳を宿した切れ長の目が自分だけを見つめて居る。
「良く抜け出せたな。家の方は大丈夫なのか」
「ああ、今日は早く家の仕事を片付けた」
そう言いながら、唇に人差し指を当てる。彼がこの動作をする時は接吻をねだって居る時なのは分かっていたので、いつもよりも濃厚な接吻をした。彼の両手が背中に回り、強い力で抱き締められた。自分も彼の薄く筋肉がついて程よい硬さの背中のラインを服の上から撫でていった。矢張り、彼の背中から腰周りの感触が堪らなく貴重に思える。
片桐は両腕を解くと、釦を外そうとしてくれた。勿論、欲望は高まっていたが、彼が疲れているようだと自重しようとしていたが、片桐の動作で火が点いた。
口付けをしながら彼のシャツの釦を外していく。釦を外し終えるとベルトを解き、ズボンの釦を外していった。彼も同じようにする。
と、突然、屋敷内が騒がしくなった。
「旦那様がお帰りになりました」と言う女中の声が聞こえて来た。それと同時に、静さんの焦った大きな声が響く。
「晃彦様はもうお休みですので、お部屋には入らないで下さい」
そう聞こえた。
父母が帰邸したと言っても、正装のまま自分の部屋にいらっしゃるとは考えがたい。部屋着に着替えてから来られるのが普通だ。しかし、静さんの声はだんだん悲痛になっていく。
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