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第115話(第5章)

 自室に戻り、部屋に鍵をかけた。自分の落ち度のせいで片桐をこんな目に遭わせてしまったのだから、悔やんでも悔やみきれない。しかし、悩んでいては片桐の立場はもっと悪くなるだろう。打開策を考えなければならない。ベランダに出て夜空を仰ぐ。片桐の登って来た木を暫く見つめて面影を偲ぶ。ふと夜空を見れば、梅雨時に相応しく雨雲が立ち込めていて星も見えない。  まるで自分の事の様だと自嘲気味に笑みを浮かべる。  こうなったからには、加藤家が全力で自分を囲い込み、外部への連絡は一切絶たれてしまうだろう。三條も例外ではない。  片桐の事を知る為には三條が一番都合のいい相手なのだが……。  使用人も明日の朝には変事に気付くだろうし、父母から何らかの事情を説明され、電話室には近づけないだろう。仮に近づけたにしろ、誰かが会話を盗み聞きするであろう事は容易に想像が付く。  すると、手紙しか無いが、郵便ポストに入れに行く事は不可能に近い。使用人の誰かを味方につけなければならないが、もし露見した場合その使用人は解雇されるだろう。そう思うとシズさんに頼むのも気が引ける。彼女も生活がかかっているのだから。  片桐への手紙も同様だ。  彼を想うと、片桐の最後の瞳を思い出された。  あの目は自分との永訣の覚悟を決めているのではないかと思う。まだ愛されてはいるだろうとは思ったが、この様な不甲斐ない様を見て、彼を失望させていないか気掛かりだった。 味方になってくれそうな人間……と、ベランダに行儀悪く肘をついて考えた。 (・・・・・・絢子様はどうだろう……)  いつぞやの園遊会での彼女の御言葉を思い出す。 「御味方になりましてよ」  確かに彼女はそう仰って下さった。御皇族を巻き込む畏れ多さは有ったが、背に腹は代えられない。絢子様と連絡をつけるためには、学校で出会う機会の多い華子嬢が一番だ。 彼女は自分達の関係に気付いているかどうかは分からないが、協力はしてくれそうだ。  自分の父が片桐家に手紙を出す前に何としてでも余波を食い止めなければならない。  体面を重んじる両親だから、息子の同性愛を社交界の他に人間に漏らすとは余り予想出来ない。  早くしなければ…と思う。それには協力してくれる使用人が必要だが、もしその人間に迷惑がかかるのならば、夜中にこっそりと屋敷を抜け出して、郵便ポストに投函に行こうと思った。
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