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第118話(第5章)

 しかもその代償が片桐家を継がないという意思表明だ。  早く、片桐を救わなければ……と思った。 「ほら御覧なさい。晃彦さんには罪は有りませんのよ。片桐の子息が全てを企んだと書いて有りますでしょう。早く目をお覚ましなさい。・・…・この分では謹慎も早く解けますわね」 「しかし、本当に私を陥れるのが目的なら、この手紙はおかしくありませんか。私の廃嫡が彼の狙いだったのなら、この様な手紙を送って来る筈はない」  母は苛立ったように言った。 「ご自分の立場をわきまえなさい。貴方は次期加藤伯爵なのですよ。この書簡の通り、片桐の子息が貴方を誑かしたのですわ」  そう言い捨てると靴音も高く部屋を出て行った。 片桐が廃嫡覚悟でこのような手紙を書いて来たからには、自分も早く行動しなければと焦燥感に駆られた。  以前は「静」さんと呼んで居たが、心の底から自分の味方に成って呉れそうなので、「シズ」さんと格上げする事にした。  シズさんが部屋に来るのを一日千秋の思いで待った。今朝の様子を見ると彼女は自分付きの役目から離されて居ない様だ。向こうから協力を申し出て呉れた事といい、片桐からも恩義を受けているシズさんは自分達の味方だと判断した。何しろ、廃嫡になる可能性の有る長男に此処まで良くしてくれるのは、下心が有っての事とは思えない。  両親やマサが彼女を遠ざけない理由……それは噂話をしない人間だから安心しているのか――確かに、同性愛の長男が居るのは家の恥だろう――もしくは、片桐と逢って居る時に彼女が叫んだ言葉、「自分は寝ている」というのを信じ込んで居た為の行為だと思い込んでいるのかだと判断したのかもしれない。  使用人が部屋の掃除をするのは午前中だ。きっと彼女も自分の部屋に現れる。彼女1人なら良いのだが……と思っていると、願いが通じたのか、または使用人を遠ざけて置くのが目的か、自室に現れたのはシズさん1人だった。  礼儀正しく一礼して入って来た彼女に感謝の笑みを浮かべた。 「本当に有り難く思う。掃除はマサが気付かないように手抜きで頼む。それよりも重大な願いを聞いて欲しいのだが」  彼女は優しく微笑んだ。 「晃彦様と片桐様のお為でしたら、何でも致します。気軽にお申し付け下さい」 「有り難う。では、この封筒の上書きを頼む。そして、この手紙も同時にポストに投函して欲しいのだが、外出の機会は有るだろうか」

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