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第119話(第5章)

 自分と片桐の醜関係が社交界全体に広がれば三條の御両親は反対をする可能性は有るが、彼はそれを跳ね返す力は持っている。  しかし、この問題は自分の家だけでなく、片桐の家もおおっぴらに社交界には言いふらさないのではないかと予想はつく。    そんな事を考えて居る間にシズさんは綺麗な女文字で華子嬢への手紙の上書きをしてくれた。彼女の苗字も由緒の有る士族の名前だ。学習院女子部に在籍していても不自然では無い苗字なのが有り難い。 「もし、直接御返事が戴けない場合は、わたくし宛に御手紙を配達して下さるようにお願いしてみても宜しいでしょうか」  シズさんは真剣な顔をしている。 「大丈夫だろうか。父上母上やマサもし露見した場合、シズさんに迷惑が掛かる」 「その点はお気になさらないで下さいませ。せめてもの恩返しですから。それに上手く誤魔化せますわ。私も手紙が来ないわけでもありませんし」  手紙を袱紗に包んで丁寧に帯に挟み、一礼して彼女は部屋を出て行った。  片桐に手紙を書く事も考えたが、彼があの様な覚悟を決めた書簡を自分の家に寄越したという事は、彼なりの覚悟が有ったに違いない。  こちらで出来るだけ動いてみて、ある程度の目途が付いた時点で報告する方が彼の負担にはならないのではないかと考えた。  彼も今は懊悩しているに違いない。これ以上の負担を掛けさせるわけにはいかない。  自分が今の心情を綴った手紙を書く事で、一層の負担になる様な気がしてならない。  片桐家の様子が知りたかった。また、父上が片桐家に抗議すると言っていた点も大変危惧される。本当に父上は手紙をしたためるのだろうか。  今朝の母上の様子から考えると両親の怒りは深そうだ。書く可能性は高い。そうなれば、片桐の病気の父上もお怒りになるだろうし、御母上もご立腹なさるだろう。  彼も廃嫡の危機に晒される。片桐の父上の御容態がお悪い上に、息子の不適切な行動を御知りになれば、容態の悪化も懸念される。片桐も心痛が増える上に親族からの指弾に耐えなければならない。  要は、父上が片桐家への手紙を書かなければいいのだが…と思った。  シズさんが外出したからだろうか、マサが昼食を持ってやって来た。どうやら余り使用人を近付かせない様に厳重に命令されているらしく、珍しく彼女1人だった。  部屋の掃除が行き届いていない事を知られるのは良くないと考え、扉の外で昼食を受け取った。 「父上や母上は御立腹だろうか」  立ったまま、マサを見下ろして探りを入れてみる。 「それはそれはお怒りで御座いますよ。マサも晃彦様があのような人間と親密にお付き合いなさるお気持ちは全く理解出来かねます」  マサの気持ちなど関係ない。そうは思ったが口には出さなかった。 「父上は片桐家に抗議の書簡を出されると聞いた。それは直ぐにお書きになるだろうか」  返事は期待していなかったが、マサは得意そうな顔をして伝えてくれた。

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