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第128話(第5章)

「わたくしが鈴子さんにお願いしたのです。他の場所では加藤様とお会い出来ませんでしょう。ですから鈴子さんの御屋敷まで加藤様をお呼び立ててしまいました」  それで鈴子嬢は二人きりになる事をお望みになられたのかとやっと納得する。 「おおよその事は華子さんから伺いました、親友ですもの。及ばずながらわたくしも協力いたしますわ」 「有り難うございます」   二人に向かって深々と頭を下げた。テェブルの上には紅茶とお菓子が三人分綺麗に盛り付けられていた。 「まぁ、父などはわたくしが加藤様と結婚させようと考えて居る様ですが、私は華子さんと違ってまだそんなお話しは考えたくないのです。オールドミスに成るのは嫌ですが、今すぐお相手を探そうという気はございませんから、上手く断っておきますわ」  華子嬢同様、彼女も何処まで自分と片桐の関係を知っているのかは分からなかったが、協力してくれる事は間違いない。  挨拶が済んだ後、椅子に座って紅茶を心ばかり飲み、一番気になっていた事を尋ねた。 「片桐君の御様子は如何ですか」  華子嬢の表情が暗く沈んだものになる。 「あまり良くはありませんの。学校に行く気力も無い様ですわ。かつての家臣や使用人の前では必死で取り繕っては居ますが、わたくしだけが傍に居る時はとても塞ぎ込んで居ります。  話しもする気力が無いといった感じですの。自室に戻るともっと懊悩しているのでは…と案じて居りますの。  何でも加藤様とのご交際がご両親に露見したとか…。それを自分のせいだと責めて居ります。御食事も召し上がらないのですもの」 「食事をしないのですか。それに彼は余り眠れないと伺った事があります」  眉間に皺が寄る。 「ええ、御食事は手付かずですし、多分お休みにもなってないと思います。なので、急でしたが、加藤様にお会いしたくて鈴子さんにお願い致しましたのよ。  加藤様なら兄を救って下さると考えまして。宜しかったら兄と会って下さいませんか」 「……」  睡眠も食事も取ってない様子、それは全て自分の蒔いた種だ。  何とかしなければと焦燥感だけが募った。  華子嬢の表情も暗い。 「兄が心から幸せそうな顔をするのは、加藤様の前だけですわ。ですからわたくし、何とかして兄と加藤様が会って下さる機会を設けたく思ったのですが、三條様に伺うと加藤様は自宅から出る事が出来ないとの事でしたので、その事をありのままに鈴子さんに申し上げました。すると鈴子さんは協力して下さるとの事なので、こうやってやっと会えましたのよ。鈴子さんのお陰ですわ」  片桐は自分との仲が露呈してからは、食事も摂らず、睡眠も取ってない様子だ。彼の身が心底案じられる。

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