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第134話(第5章)
翌日、掃除に来たシズさんに手紙を託した。華子嬢からの返事が特に待ち遠しい。焦燥感に駆られながらも、仕方なく勉強をしているとシズさんが片桐家と三條家への文使いを終えて屋敷に戻って来た。夕食まで待たねばならないのかと溜息を吐いていると、こっそりと彼女が無言で部屋に入り、袱紗に包んだ手紙を手渡して部屋を出て行った。恐らく仕事が溜まっているのだろう。
封を切るのももどかしく華子嬢からの手紙を読んだ。
――宮城への招待は父の病状の為かどうかは分かりませんが、我が家には御座いません。三條様が誘って下さいましたが、兄の様子の方が気掛かりですのでわたくしは屋敷に居ります。兄も晃彦様がいらっしゃれば食事もするかと考えますので、ご依頼の件承りました。わたくしが屋敷に入れるように取り計らいます。もちろん父母には内緒に致しますわ
柳原様から御手紙をお預かりしました。同封いたします――
このような手紙だった。安堵の思いで柳原嬢の手紙を開封した。絢子様と連絡は取れたのだろうか…。
彼女も流麗な文字で手紙を書いて下さっていた。
――片桐様の事で即刻宮城へ家令を走らせました。この様な事を書くのは憚られますが、皇后陛下にお話しするには、俗に申します小姑の絢子様の方が適任かと思いました。絢子様と皇后陛下はお親しいと伺っておりますし。ですから本日、絢子様に「加藤様がお会いになりたがっていらっしゃる」とお伝えしましたところ、「今日にでも招待状を出す」とのお言葉で御座いました。ある程度の事はご存知でいらっしゃいますのでこのように早いご招待になったのだと拝察致します。――
明日なら都合が良い。明後日は片桐に逢いに行くのだから。
確かに皇后陛下に内々に申し上げるのは絢子様の方が適任だろう。天皇陛下御生母でいらっしゃる柳原様は、万事がおっとりとした方でそれ程の勢力はお持ちで無いと仄聞している。絢子様はご闊達でいらっしゃる。その上、自分達の関係までもご存知だ。その御方がこれ程早くお動きになられるとは予想外だったが、畏れ多い事ではあるが都合は良い。 皇后陛下は出自こそ公家華族だが、御一新前は丈夫に御育てするとの名目で豪農の元に預けられていらっしゃったせいか、人の気持ちをくみ取る事の出来る素晴らしい方だと誰からか聞いた事が有る。
そんな事を考えていると、マサの声が扉の外から響いた。慌てて手紙を仕舞い、入室を促した。入って来たのはマサではなく母だった。
興奮した様子で少し頬が上気している。
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