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第135話(第5章)

「ただ今、宮城から御使者がいらっしゃいました。絢子様から晃彦様にとのご招待状だそうです。勿論参内されますわよね」  意外そうな顔を取り繕って言った。 「ご招待状ですか……絢子様とは確かに面識はありますが、招待される理由が分かりません。それに宮城では内内の晩餐会が近い内に催される筈です。何時、参れば宜しいのでしょうか」 「それが、明日という事なのですわ。確かに明後日は宮城の晩餐会ですが、畏れ多くも絢子様のようなご身分の方はそれ程準備が大変では御座いませんのよ。  理由は分かりかねますが……ただ、名誉な事ですのでよもや晃彦様もお断りにはならないでしょうね」  母の眉が釣り上がった。 「はい、では参ります。理由はご存知でいらっしゃいますか」 「いいえ、こう申しては何ですが、高貴な方の気まぐれではないかと畏れ多くも拝察します。でも、我が家にも名誉な事には間違いは御座いません」  母は着る物の指図をすると、父上もお喜びでいらっしゃいますとの言葉を残して慌しく部屋を出て行った。  母も宮城での晩餐会の用意で忙しいのだろう。その上、息子までが御皇族の招待を受けたので興奮状態のようだった。これなら明後日、自分が屋敷を抜け出す計画を立てている事には気付かないだろう。  片桐と自分の為に絢子様がどれだけお力をお貸しくださるかが心配だった。ただ、悪い方には向かって居ない事だけは確かだ。 「貴女達は下がりなさい」  絢子様の御声で官女が一斉に部屋を出た。絢子様の御殿の応接室に通された刹那の出来事だった。それまでは、丁重な挨拶を交わしただけだった。  程好い上品さに囲まれた豪華な室内だった。 「お久しぶりですこと。ご機嫌は御悪いようですわね」  優雅に扇を弄びながら絢子様は仰った。 「お久しぶりで御座います。単刀直入に申し上げる無礼をお許し下さい」  扇を口元に当て、紫色の振袖をお召しになった絢子様は、真剣な表情をなさった。 「わたくしにも心当たりが御座いましてよ。御両親に片桐伯爵の子息との関係が露呈した。そうで御座いましょう」  ご存知でなければこんなに早く面会など叶わなかったに違いない。 「その通りでございます。しかし、良くご存知でいらっしゃいましたね」 「わたくしにも色々と耳打ちする者も、心痛の余り相談する者もおりましてよ。男子部にも通って居る縁の者が居ります」  それはそうだろう。元来、学習院は御皇族の為に建てられた学校だ。  心痛の余り……とは、華子嬢か柳原鈴子嬢に違いない。 「男子部ではそれ程、噂にはなって居ないと思っておりましたが」

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