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第149話(第6章)

 衰弱している片桐の姿はもう見たくは無い。自分の望みは唯一つ、自分の隣で幸せそうに笑う片桐の姿を見ていたいだけだ。  片桐伯爵への口上を考えていると、使用人が扉の向こうから声を掛けて来た。  「柳原伯爵令嬢からのお電話で御座います。奥様にお伺いしたところ、取り次いでも良いという事ですので、電話室にお急ぎ下さい」  柳原嬢は味方だと思っていたが、急な電話に面食らった。  電話室に急ぎ、耳に柳原嬢の声が聞こえる様に受信用の機械を当て、口元に話が出来る様に通話用の機械を当てる。  一通り挨拶が済んでから、柳原嬢は仰って下さった。 「華子さんに頼まれてお電話致しましたのよ。ご伝言がありますので、良くお聞きになって下さいませね」 「はい」  この流れからすると、華子嬢は手紙を受け取って直ぐに柳原嬢と連絡を取ったという事だろう。要するに彼女は御味方して呉れるという事だ。少し安堵した。 「申し上げますわね。『宮城から皇后陛下直々のお招きが有りましたので、明日、母はお召し物をお買いに、お気に入りの呉服屋に参るとの事です。母の買い物は長いですので、昼間から夜にかけては屋敷には居ないと思います。兄も加藤様のお陰で、少しは元気になってくれたようですわ。相変わらず、眠れてないようですし、食事も進みませんが。加藤様がいらして下されば兄も食欲が出ると思いますので、信頼出来る使用人――昨日の人ですわ――にくれぐれも申し付けて置きますので、是非いらして下さいませ』…大体このような事を仰ってました。 明日、是非片桐様を見舞って下さいませね。確かにお伝え致しました。ご不明な点は御座いますか」 「いえ、わざわざのお電話有り難う御座います。不明な点はありません。御好意に感謝します」 「それは良かったですわ。ではご機嫌よう。」  そう仰って電話は切れた。  電話室を出ると、母が喜色満面といった雰囲気で立っていた。 「柳原伯爵令嬢はどのようなお電話でしたの」  母は柳原伯爵令嬢との縁談が進んでいると思い込んでいる。全くの誤解だったが、その誤解を訂正すると柳原嬢の電話まで取り次がないようにと使用人に厳命されるだろう。 「ええ、『また屋敷に来て下さい』という内容でした」 「そうですの。順調ですわね。喜ばしい事です。わたくしは忙しいのでこれで失礼致しますわ」  そう言って、母は足早に去って行った。  明日の訪問……片桐伯爵に面会が叶わない可能性も有る。自分の家と片桐の家では確執が有ったのだから。  それでも、そこに活路を見出すしかない。追い返されても構わない覚悟で片桐の父上に会ってみようと思った。  明日、片桐の屋敷に行って彼に食事を摂らせてから、面会のお願いをしてみようと思った。

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