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第165話(第7章)
片桐邸の正面玄関に立った時、小声で声を掛けられた。振り返って見ると、華子嬢が立って居た。御着きの女中は居ず、彼女1人だ。
「御機嫌よう。兄の見舞いでしょうか。三條様も御二人の事を心配されて居ます。わたくしが兄の部屋までご案内致しますわ」
そう言って、先に立って歩き出した。
暫く会わない内に、片桐に良く似た細面の顔がより一層綺麗になって居る。三條という婚約者を得て、幸せなのだろう。憔悴している片桐とは違って、雰囲気までもが明るくなって居た。
「御兄様、例の方がお見えに成りました」
そう言って片桐の部屋の扉を叩くと、待ち構えたかの様に扉が開いた。
「華子、後で二人分の食事の用意を運ばせて呉れるようにしてくれないか」
片桐は笑顔でそう言うと、妹を扉の外に残して扉を閉めた。
「来て呉れたのだな・・・…」
満面の笑みを浮かべた片桐は、待ちきれないといった風情で腰に手を回して来た。そして唇を彼の方から重ねた。
昨日よりも少しは回復している様でとても嬉しかった。
自分も彼の腰に手を回し、彼の形の良い唇を堪能していた。
愛しい片桐の唇から、断腸の思いで唇を離した。離れ離れになってかなりの時間が経過している。このまま接吻を続けていると、もっと先の事までしたくなってしまうという焦燥感に似た感情が押し寄せて来たせいだ。
今日は明日の皇后陛下との内々の謁見に備えて、彼の体力と精神力が回復する事を優先させなければならない。
片桐は唇を離されて不満そうだったが、一段と華奢になってしまった腰を抱いて、説明する。
「明日は宮中に参らなければならない。これ以上接吻を続けると、それだけでは我慢出来なくなる」
真顔で言うと、片桐は不承不承といった顔で頷いた。
「お食事を持って参りました」
扉を叩く音と共に聞こえてきた。
片桐は腕を解くと、扉に向かい食事の載った台を運んで来た。華子嬢の心遣いなのか、二人分有る。
「お前、まだ食べる事が苦痛なのか……」
少し気まずそうに苦笑した片桐が言う。
「晃彦の前だと食べられるが、それ以外ではやはり食は進まない…ただ、今は無理やり食べ物を咀嚼しようとはして居る」
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