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第166話(第7章)

 二人して食事の卓に座る。相変わらず箸の動きは遅いが、食事は残さず食べる事が出来た。  その後、明日のことについて相談する。  片桐にも絢子様が動いて下さって居る事は報告済みなので、明日の皇后陛下の呼び出しもその件だろうと告げた。 「そうか……ただ、社交界の一部ではオレと晃彦の関係が醜関係として伝播していると、母上が大変な剣幕で怒っていた……」  長い睫毛を伏せて片桐が言った。  恐らく、その噂は、自分の母が漏らしたに違いない。 「……申し訳ない。それは俺の家族のせいだろう。ご立腹の様だったから」  片桐は、瞳に複雑な色を浮かべている。 「いや、オレは気にしないし、むしろ晃彦が迷惑すると思ってひたすら申し訳が無かったと思って居た。オレが同級生でなければ、こんな出会いも無かったのに……」  躊躇したが、思い切って聞いてみた。 「俺とこういう関係になって後悔しているのか」  彼は瞳を切なげに細めた。 「いや、後悔は全くしていない。ただ、波紋が予想以上に大きかったものだから……」 「だが、協力者もお前のお陰で沢山出来た。そうそう、シズさんが『申し訳ない』と伝言を頼んで来た」 「そうか……。『こちらこそ』と返事をしておいて呉れれば嬉しい。それから……」  そう言うと片桐は席を立ち、向かい合った状態から隣り合わせの席に移動した。  隣の席に移動した片桐は、肩に頭を凭せ掛けて来た。  彼の体温が感じられてとても気持ちが良かった。その時、彼がクスリと笑う声が聞こえたので、彼の視線を辿る。  被って来た鳥打帽を見ているらしい。 「そんなに可笑しいか」  髪を梳きながら聞いた。 「可笑しい。晃彦がその帽子を被って居る所を想像すると、似合わな過ぎて…」  顔を覗き込むと屈託なさそうに笑って居る。露呈してから彼の笑顔にはどこか硬さが感じられたが、今はそれが無い。  確かに鳥打帽は商家の使用人などが被る帽子だ。 「もし廃嫡されても商家には働きに行けないだろうな……」  苦笑交じりに言った。 「晃彦は、廃嫡されないで欲しい。これはオレの心からの願いだ。オレはどうなっても構わないが…」  その言葉に髪を梳く手を止めて、一瞬片桐の頭を強く押してしまった。  片桐の覚悟の程が伝わって来る。自分だけを救おうとしているのだろう。片桐は廃嫡覚悟の様だった。 「あ、それ気持ち良い」 「これだろうか」  彼の頭皮を押すと、片桐は頷き気持ち良さそうに目を細めて居る。  両手を使って彼の頭皮を隈なく力を加減して撫でた。  片桐は心地良さそうに目を瞑っている。 「廃嫡の憂き目には遭わないだろう。片桐伯爵の御考えも廃嫡には反対されている」 「父上はああ仰ったが、社交界の一部では、オレとお前の事を知っている人間が居る。この噂が広まれば、父上も考え直すかもしれない」  自分の父母を――特に母を――憎く思ってしまった。

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