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第168話(第7章)

 その声を聞きながら、門番に見つからない様に無事に門に入ることが出来た。  彼女は華子嬢からそのように命令されて着いて来たのだろうと推定する。彼女の心遣いには心底感謝した。  裏門の門番の様子からも察する事が出来たのだが、父母は未だ帰邸されてないらしい。  こっそりと自室に入った。シズさん手縫いの服は室内着としてもみすぼらしいので、使用人に見つからない様に気を付けた。  帰邸した事を目敏く察知したのだろうシズさんがやって来た。 「旦那様と奥様はまだお戻りではありません。晃彦様がお出かけになられた後はどなたもお部屋に近付いておりませんわ」  安堵したように報告して呉れる。 「お陰さまで片桐に逢えた。彼はシズさんに『宜しく伝えてくれ』と言っていた」  室内着に着替えながら言った。 「かたじけない御言葉です。嬉しゅう御座います。片桐様の御容態は如何でしょうか」 「ああ、一時期よりも回復して居る様だ」 「それは喜ばしい事で御座いますね」 「ああ、問題は明日にどのような御言葉を皇后陛下から賜るかだけだな」 ――明日、自分達の運命が懸かって居る事に間違いは無い――。  今晩は、かつての片桐の様に眠れそうに無い。  皇后陛下からどの様な御言葉を賜るか次第で、自分と片桐の将来が変わって来る。そう思うと寝付けなかった。  夜が更けるにつれ最悪の事態を想定してしまう有様で、どうしても眠りに入る事が出来そうに無い。  きっと、片桐も色々と悩んで、寝付けない夜を過ごしたのだろうと思うと、彼に対する想いが勝ってしまう。  寝台の中で寝返りを打って居る内に次第に空が白んでくるのが分かった。梅雨時にも関わらず、今日は晴れらしい。何となく幸先の良さを感じた。  皇后陛下にお目にかかるのは午後三時と成ったと、昨日母から聞いた事を思い出し暫くまどろんだ。  が、夜が明け、朝食の時間前になると、母付きの女中達が慌しく廊下を行き来して居る音で完全に目が覚めてしまった。  母の事だ。お召し物は決まっても、其れに合わせる宝石などをあれやこれや吟味しているに違いない。  皇族方ならいざ知らず、伯爵家である自分の家に皇后陛下の直々の御招待は初めてで、母も困っているに違いない。  皇后陛下よりも目立つ宝石などは付けられず、そうかと言って質素な宝石では見劣りがするのだろう。この様に母付きに女中が慌しいのは、洋装にすると決められたのだなと思った。  シズさんが朝食を運んで来る前に母が部屋に来られた。

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