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第169話(第7章)
「晃彦さんは、何をお召しになりますの」
昨日片桐は制服を着て参内すると言って居た。自分も其れに倣おうと思っていた。
「学生は学生らしく制服で参ります」
きっぱりと言い切ると、母は不満そうに「晃彦さんの正装も購入致しましたのに」と仰った。しかし、片桐と同じ服装でなければ彼も気後れするだろう。自分の意見を押し通そうと思った。
「学生の上に謹慎中の身の上です。矢張り制服で参ります」
揺るぎない口調でそう申し上げた。
「まぁぁ。晃彦さんがそう思ってらっしゃるのでしたら仕方ありませんね。わたくしは用意がありますので、失礼」
そう仰ると、足早に部屋から出て行かれた。
朝食後、少しでも睡眠を取ろうと横になる。自分も平常心で臨まなければ成らない。
出発の予定時間が迫って来た。
何時もよりも念入りに身支度をし、部屋で待機していると、母が予想した通り、ロープ・デ・コルテ姿で現れた。薄緑色のドレスに翡翠の首飾りと耳飾りを付けていらっしゃる。
母の年齢からすれば、妥当な選択ではないだろうかと思った。
「では、参りますよ」
緊張に母の声が強張っている。
頷き、母に続いて自動車に乗り、宮城を目指した。勿論父上もご一緒だ。本日は内々の謁見のため、使用人は連れて行かない事になっていた。
宮城の二重橋を渡り、皇后陛下が御住みに成られている御殿まで車で入る許可を貰っていたので、陛下専用の車寄せに車を停めさせた。
見慣れない車が停まって居た。片桐家の物だろうと見当を付ける。
もう、此処まで来てしまったのだから、皇后陛下の御言葉次第だ。腹を括るしかないと思った。
「あのお車は何方のかしら」
母の素朴な意見を聞いて居ない振りをする。女官達が駆け寄って来て父母の顔を失礼でない程に確認している。
「加藤伯爵夫妻と晃彦様でいらっしゃいますね」
父が頷くと、先に立って案内して呉れる。
車寄せからかなり歩く距離に皇后陛下のお部屋が有った。廊下を歩いていると、至る所に菊の御紋章が目に付く。
「こちらでございます」
一室に入ると、皇后陛下と共に、さり気無く絢子様までいらっしゃる。そして、制服姿の片桐と、正装の片桐の両親も。
三人を認めた母は眉を吊り上げたが、陛下の前では何も申し上げる事など出来るわけが無い。
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