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【イケない遊び】那月紗良
※叔父×甥/R-18/小スカ有/インモラル
***
イケないことは、どうしてこんなに気持ちいいのだろうと思う。
「ふっ……んん、あっ……」
くちゅくちゅと卑猥な音が室内にこだまする。
美広は体重を背中の壁に預けた。
うっすらと瞳を開くと、すっかりと勃ちあがった脚の間のものの先端からは、絶えず愛液が滲み出ている。
それは屹立を擦り上げる滑りを良くし、鳴る水音が更にいやらしい気持を昂らせる。
気持ちいい……でも、もっと気持よくなりたい……。
美広は赤い舌をちろりと覗かせ、舌なめずりをする。
左の中指と薬指を口内に招き、じゅぷじゅぷとわざと鳴らして舐め上げる。
たっぷりと唾液に濡れたそれを、双丘の間の最も奥に導く。
爪先を突き立てると、閉じた蕾がひくりと震えた。
「あっ……」
ずぷりとまず一本、肉環を押しのけて差し挿れる。思わず熱い吐息が漏れる。
ゆっくりと抜き、再びぐっと押し這入ると、身体中が甘く痺れるような快感に包まれた。
「はあぁ……んん」
胎内に、あるものすごく気持ちがいい一点がある。
美広は自分のそこをもうすっかりと知っていながら、あえて触れずに指を抽挿する。
その間も陰茎を擦る手は止めず、美広しかいない部屋はずちゅずちゅという淫らな音と、熱い吐息が混じり合い支配する。
「あっ……やぁ、あ」
早くたまらなく気持ちいいところをぐりぐりして欲しい。
焦らしているのは自分だが、ねだるように腰をくねらせてしまう。
なぜならば、これは美広の指であって美広の指でないからだ。
――もっと気持ちよくなりたいか?
頭の中で、腰の奥がずくんと疼くような低く淫靡な囁きが響く。
それはよく知っている人物の声であり、違うのだ。
実際の彼はそんなことを言ったりしない。
これは自分の妄想に過ぎない。
美広は、こくこくと懸命に頷いた。
もうそこの快感でしか、果てることができない。
――いやらしい子だな。
「はぅっ……」
指がしこりを掠めると、背筋を電流のような快感が駆け抜けていった。
口にくわえたTシャツの裾が、唾液でじわっと濡れていく。
二本の指でぐりぐりと押し、媚肉を爪の先で引っ掻くと、わだかまっていた快感がはっきりとしたものに変化していく。
気持ちいい。気持ちいい。気持ちいい。
脳に霞がかかって、思考がだんだんと失われていく。
浮かぶのは、よく日に焼けた彫りの深い麗しい男の顔だ。
「隆之さんっ……隆之さんっ」
誰とも枕を共にしたことがない美広だったが、自慰によって身体の快感だけは覚えてしまっている。
本当はもっと、熱くて硬くて大きいものが欲しい。
でもそんなこと絶対言えないし、今後も言うつもりはないから、こうして一人で慰めている。
追い詰める速度をあげると、身体中の血液が沸騰して、霞がより濃くなる。
全身にぎゅっと力が入った。
頭も壁にもたげて、喉を反らす。
「はぁ、あ、隆之さ――」
――その時、ガチャっとドアノブを回す音が聞こえた。
大きく肩が跳ねる。
沸いていた血液が急速に冷えていく。
なぜなら、部屋に入って来たのは今まさに頭の中で思い浮かべていた人物だったからだ。
「美広」
長身の逞しい体躯をした男が佇んでいた。
久々に見ても記憶の中と違わぬ、精悍な顔立ちをしている。
浅黒い肌は健康的で、顎に貯えた短く揃えた髭が、大人の男としての色香を一層引き立てていた。
ドアと美広がいる壁際は対面だ。
相手からは床にしゃがみこみ、大きく脚を開いた美広の、性器を握る手も、指を咥えこんだ後孔も丸見えである。
何をしていたかは、火を見るより明らかだ。
美広は反射的に床に落ちていたジーンズを掻き抱いて身を隠した。
丸まって膝頭に顔を埋める。
心臓がばくばくと、まるで耳元にあるかのように煩く喚いている。
どうしよう。見られてしまった。
人に自慰を見られたというだけで恥ずかしいのに、あまつさえ本人に知られてしまった。
自分の相手の名を呼ぶ声は聞こえていただろうか。
そしたらもう堪えられない。
きっと軽蔑された。
どうしよう。どうしよう。
目頭が熱くなって、じわっと涙が浮かんでくる。
その表情も見せられないから、余計に顔をあげられなくなった。
どれくらいそうしていただろう。
美広にとっては永遠のように感じられたが、本当は一瞬だったのかもしれない。
再び、扉が閉まる音が聞こえた。
きっと、隆之は呆れて出て行ったのだ。
ほっとしたような、胸が引き裂かれるような、相反する思いを抱きながら顔をあげる。
「美広」
眼前に、男の顔があった。
驚きのあまり背後の壁にしたたかに頭を打ち付けてしまう。
ごんっと鈍い音が鳴る。
相手は目線を合わせ、壁に手をついた。
美広は両腕の中に閉じ込められてしまう。
すぐそこに隆之の顔があったら、そちらを見ることなんてできない。
身を固くしたまま、伏し目に視線を逸らす。
「お前、俺が好きか」
いきなり確信をつく質問に、心臓が跳ねあがった。
やはり、自分の呟きは聞こえてしまっていたのだ。
脈拍があがりすぎて、もうどうにかなってしまいそうだ。
ふいに膝を抱える腕を掴まれて、ゆっくりと外される。
強い力じゃないのに、抵抗できなかった。
ジーンズも取り払われてしまうと、もう脚でしか秘部を隠せない。
「なあ、俺のをここに突っ込んでもらいたい?」
隆之の指が撫であげたのは、美広のすっかりと蕩けた蕾だ。
びくんと身体が跳ねる。
「あっ……だめだ、隆之さん」
そして同時にきゅんと、後孔もヒクついた。
まるで期待しているような自分の身体の反応に赤面する。
でも、だって、ダメなのだ。
彼は父さんの弟である。
頭上で両手首を拘束され、顎をくいっと摘ままれる。
初めて隆之を真っ直ぐみると、見たこともない獰猛に光る本能を宿す瞳と視線が合う。
「やっ……隆之さ――」
それはコマ送りのように近づいてきて、やがて焦点を結ばなくなった。
***
おばあちゃんの家の匂いは、落ち着く。
真夏の太陽をいっぱい吸い込んだ干し草みたいな、温かくてどこか懐かしい感じがする。
「いやー、美広は見ないうちにすっかり大きくなったなあ」
じいちゃんが顔を綻ばせて笑う。
美広が祖父母の家を訪れるのは、中学二年生の時から二年ぶりである。
その間に、身長は15センチほど伸びた。
「成長期だからな、美広は」
上機嫌の父さんがビールのグラスを傾けている。
明日も休みなので、心おきなく酒が飲めると彼は嬉しそうだ。
母さんが「あんまり飲み過ぎないでよ」と嗜めるのを「大丈夫だよ」とあしらう。
「また一段と義之に似てきたな」
カッカッカとじいちゃんが乾いた笑い声をあげる。
父と隆之は兄弟だが顔の系統が違う。
父はどちらかと言えば甘い顔立ちであり、年齢の割に若くみられる。所謂童顔だ。
美広はそんな父の血を色濃く受け継いでいた。
正直自分の顔は、あんまり好きではない。
女の子にはちやほやされるが、興味はないし、ちょっと鬱陶しい。
美広が憧れるのは、もっと男らしい凛とした顔なのだ。
「仕事はどうだ、隆之?」
テーブルの上には山盛りの料理の皿が乗っている。
美広達が東京から来るからと、祖母が用意してくれたものだ。
父さんは枝豆を摘まむ。
「あぁ、問題ないよ」
「隆之がいてくれて助かってるわよねえ、お父さん」
祖母がのんびりと返事をして、祖父は頷く。
縁側の向こうの庭からは、涼し気な虫の鳴き声がする。
ここの夜は東京と違い、日中の熱気を土が吸い込みしっとりと過ごしやすい。
「戻ってきてしばらく経つが、いい人はいないのか」
父の隆之への問いに、心臓がどくんと跳ねた。
「今は、考えてないな」
その返事に、内心胸を撫でおろす。
隆之は一度東京で結婚し、そして別れて実家であるここに帰ってきた。
今は近くに家を借りて、家業を手伝っている。
「とは言っても、お前はまだ若いんだし」
「若いって、もう36だぞ」
苦笑を浮かべる隆之に、「俺より全然若いだろ」と父は笑う。
父と隆之は7つ違いで、それくらい離れていると幼いころから喧嘩も特にないようで、ずっと仲がいい。
「いい人と言ったら、お前はどうなんだ? 美広」
肩が小さく震えたのは、ちらりと視線を送られたからではない。
隣に座る隆之が、テーブルの下でそっと手に手を重ねてきたからだ。
熱い指先に、全身の血液の温度がカッとあがった。
「高校生になったんだし、彼女の一人や二人くらいいるだろ」
「美広、二人はダメだぞ」
大人のふざけた会話は、ほとんど耳に入らなかった。
意識は手首の内側だ。動脈を、ツツツとなぞられている。
くすぐったいようなぞくぞくとした感覚に、思わず身を捩りたくなる。
「美広?」
「あっ、うん。いないよ彼女なんて」
心配気な母に慌てて返事をする。
その間に、指は太ももに移り、触れるか触れないかの絶妙な距離感でゆっくりと撫でられる。
「彼女ができたら教えてよね」
「うん」
艶めかしい指先にぞわぞわと背筋が粟立ち、身体の中心にじっとりと火が灯っていく。
涼しいはずの夜に、自分だけが汗を滲ませている。
どういうつもりなんだ、隆之さん――。
相手の様子を目線だけで窺うが、涼しい顔で料理に箸をつけているだけだ。
「兄貴達はいつまでいるんだ?」
「明後日。美広は一週間いるよ」
「へえ、じゃあ祭り見て帰るって感じだな」
この地域では盆に夏祭りがあり、二日目に打ち上げられる花火は日本でも有数だ。
「あっ――」
隆之の指が、太ももの内側の敏感な部分を掠めた。
思わず漏れ出た声に注目を浴びてしまい、「虫がいて」と急いで誤魔化す。
ちゃんと笑えていただろうか。
それでも愛撫の手はやまず、脚の付け根をなぞられると、身体に、昼間の熱が蘇ってくる。
違和感のある、後ろの窄まりがきゅんと疼く。
初めて受け入れた男のものが、まだ挿っている感じがする。
はあ、と熱い吐息が漏れ出てしまう。
これ以上は、ダメだ。
美広は隆之の手に手を重ねて、うっすらと膜の張った瞳で見上げ、小さく首を振る。
「俺、そろそろ帰るわ」
隆之が突然立ち上がったので、脚の上の熱が退いた。
驚いて、身体がびくりと跳ねる。
「もう?」
「あぁ、また明日」
そのまま入口へと向かう隆之に、内心ほっとしたような残念な気持ちで背中を見送る。
すると、居間の扉に手をかけた隆之が、「あ」と、思いだしたかのように振り返った。
「美広、さっき家にある本見たいって言ってたよな? 一緒に来るか」
「え……」
そんな話、した記憶はない。
「おや、そしたら美広、隆之の家泊っていくか?
お前ちっちゃい頃から懐いてたもんな。久々に会って話したい事たくさんあるだろう」
困惑した美広が黙っていると、じいちゃんが勝手に話を進めてしまう。
「え、で、でも」
「いいよな、義之?」
「あぁ、まあ……」
ちらりと父さんに視線を送られたが、彼は否定はしなかった。
「そうね、行ってらっしゃい」
ばあちゃんにふんわりと微笑まれて、断れない空気になってしまう。
「うん、行ってきます……」
玉になった汗が、首筋を伝い落ちて行った。
*
祖父母の家から隆之の家までは、車で20分だ。
路にはぽつぽつと街灯がある程度で、都心のような喧騒と目に悪いネオンはない。
田んぼの方にいくと、光はすっかりと失われ、闇に包まれる。
都会にはない夜が、ここにはある。
美広は車窓から流れていく景色を眺め、午後のことを思い出していた。
祖父母の家に到着したのは、今日の四時過ぎだ。
荷物を降ろして早々に、両親は近所の人へ挨拶に向かった。
祖父は趣味の将棋へと出かけており、台所では祖母が夕飯の仕込みをしている。
美広は2階の隆之が学生時代使っていた部屋に一人残された。
この数日間泊るために用意された部屋だ。
隆之は高校卒業と共に東京へ出て来て、戻って来てからも近所に住んでいるので、随分と長く使われていない。
もうすっかりと隆之の匂いはなくなってしまった。
けれど、ポスターの形に日焼けした壁や、少年時代に読んでいたのであろう漫画を見て、学生時代の美広の知らない彼の足跡を見つける。
すると、何だか宝物を発見したような気持になって、心が甘い液体が満たされていく。
隆之の欠片は、どんな小さなものであっても、拾い集めて胸に大切に大切にしまうのだ。
男の低い声を思い出すと、身体の内側がきゅんとした。
腰の奥が甘く疼いたら、もう触れられずにはいられない。
隆之に自慰を見られてしまったのは予想外だったけど――。
「美広」
車内の静寂がいきなり破られて、美広は肩を震わせた。
「今、何考えてた?」
隆之のことだ。そして、秘密の、あの情事のこと。
答えあぐねていると、「いやらしいことだ」と笑われて、顔が熱くなる。
「ち、違うよ」
「嘘だな」
急に、車がキィと高い悲鳴をあげて停止した。
前のめりになった身体を、シートベルトに受け止められる。
驚きのあまり相手を振り返ると、ぐっと顔を寄せられた。
助手席の背中に腕を回されて、心臓が高鳴る。
「だって美広は、処女なのに前も後ろも使ってオナっちゃう、いやらしい子だもんな」
耳元でそんな風に囁かれて、美広は身体中が炎に包まれたかのように熱くなっていくのを感じた。
恥ずかしさのあまりに目元が潤む。
隆之はこんな意地悪な人だったろうか。
ふいに頭の後ろを大きな手でしっかりと掴まれる。
顔を覗き込まれ、今日まで知らなかった、男の目に射止められる。
あ。
そう思った時には、唇を塞がれていた。
熱くて柔らかいものが押し当てられている。
「んっ……ふぅ……」
胸元を押して抵抗しても相手の身体はびくともしない。
歯列を割って、舌が口内に這入り込んでくる。
美広の舌を捉えるとねっとりと絡み取られ、吸いつかれる。
敏感な粘膜を擦られて、体中に甘い痺れが広がっていく。
「ぁ……は、ふぅん……」
あまりに深い口付けに、酸欠になり、頭の奥が、ぼうっとする。
隆之の胸元を握りしめていた手の力が抜けていき、シャツの上をずるずると滑り落ちた。
ぷはっと顔を離し荒い息で喘ぐ美広の、口元を伝う涎を親指で拭われる。
「……本当、兄貴に似てきたな」
「んっ」
隆之の呟きに反応する間もなく、脚の間のものを撫で上げられ、びくりと身体が震えた。
「勃ってる」
ふっと小さく口角をあげた相手の呟きに赤面する。
布ごしに柔く揉みしだかれると、もどかしい感覚に揺れそうになる腰を抑える。
「や……だめだ」
隆之の手を離そうとすると、逆に手首を掴まれ動きを封じられてしまう。
「何されるか分かってて来たんだろ」
切れ長の双眸に真っ直ぐ射抜かれ、低く甘い声で問い詰められる。
「だって、ここじゃ、だめだよ……」
美広は耐えられず、斜めに視線を逸らした。
いくらすっかりと暗いと言っても、ここは外だ。
いつ誰が通るか分からない。
「じゃあ、ここじゃなきゃいいんだ」
隆之には、美広の気持ちなんてお見通しなのだ。
内心期待してほいほいとついてきた浅ましい自分のことなど。
朱に染まった耳朶を撫でられて、背筋がぞくぞくと震えた。
「寝かさないから」
車体がゆっくりと動き出す。
隆之の言葉に後ろの窄まりが収縮し、昼間奥底に注がれた精液が、ぽたりと零れ落ちてきた気がした。
*
「美広、大丈夫? 顔色悪くない?」
昼過ぎに隆之の家から戻ってからというもの、しきりに母さんに心配されている。
美広は緑青色の浴衣の襟元をきゅっと握った。
今日はろくろく、母の顔を見ることが出来ない。
「大丈夫だよ」
曖昧な笑みを浮かべ返事をする。
昼の顔色の悪さは寝不足からくるものと分っているが、今はまた事情が違う。
むしろ、血色は良くなっているのではないだろうかと思う。
それを誰にも悟られてはならないが。
「着いたぞ」
一家を乗せた車が停車して、ドアを開くと、祭りばやしが聞こえてくる。
すっかりと日は暮れたが、祭りの中心部は煌々と明るい。
気怠い腰をあげて地面に足を付けた途端、ある衝撃を受けてよろめいた。
「おっと」
身体を、隆之に抱き留められる。
藍色の浴衣を纏い、髪を撫でつけた隆之の普段と様変わりした姿には思わず見惚れてしまった。
滲み出る色香が、より一層増したように感じる。
うっすらと弧を描いた口元に体温が上がった。
「一人で歩けるか?」
耳元で囁かれ、ハッとして「歩けるよ」と相手を突き放す。
誰のせいでこうなっているのか。
隆之がこんなに意地悪だったなんて、知らなかった。
駐車場から神社に近づくにつれ、祭りの熱気が濃くなっていく。
美広は皆において行かれぬよう必死に歩幅を合わせる。
熱い吐息が漏れださぬように、下唇をきつく噛みしめた。
照明が強くなり、右と左に屋台の並ぶ通りに出る。
その間は人でごった返しており、さながら満員電車だ。
けれど家族連れや恋人達は、皆笑顔を浮かべて通り過ぎていく。
明かりがやけに眩しい。
喧騒の真ん中にいるのに、人々の声がどこか遠くに聞こえる。
身体中に汗がじっとりと滲んでいる。
「美広、何か食いたいもんあるか」
父さんに肩を叩かれ、思わず身体が跳ねた。
脚が、小刻みにわななき始める。
こめかみを伝った汗が、地面にぽたりと落ちて行く。
「み、美広……?」
困惑した声が聞こえるが、そちらを向くことができない。
太ももの布地を力強く握りしめて堪える。
でも、ダメだった。
美広はついに、通りの真ん中でしゃがみこんでしまう。
「大丈夫? やっぱり体調悪いのね」
慌てて駆け寄ってきた母さんの声が降ってくる。
美広は膝を抱え顔を伏せたまま小さく首を振った。
唇を噛みしめているから、声が出せない。
「俺が面倒見ます。美広、行こう」
隆之に力強く腕を引かれ起こされて、肩を担がれる。
「ええ、隆之さんいいわよ」
「任せてください。せっかくの祭り、兄貴と楽しんで」
よたよたとした足元のまま、相手に従って歩みを進める。
辿り着いたのは、人影のない草むらの中の祠の前だった。
木に寄りかかって身体を預ける。
喧騒から離れると、ブーンという低い音が聞こえて、恥ずかしい。
「隆之さ、もう……っ」
相手の袂を握りしめて首を振ると、胎内の振動は止まるどころか威力を増した。
「あぁ、や……! だめぇっ」
隆之の手に握られているのはコントローラーだ。
美広の内側に挿れられた、玩具を操るもの。
『これ、何だか分かる?』
それは隆之が美広の浴衣を着つけてくれた時のことだった。
ばあちゃんの家だということもあり、隆之に着替えさせてもらうのは酷く緊張した。
普通に着つけてもらったことにほっとする。
――いや、ほっとしたってなんだよ。
と内心突っ込みをいれ頭を振ったのもつかの間。
眼前に差し出されたのは、ピンク色の楕円の球体だった。
隆之のもう片手に握られたスイッチを押すと、低い音をたてて震え始める。
何か、は分かった。
でもまさか。
『美広、あーん』
振動がとまったそれを、隆之が口元に運んでくる。
美広は口を閉ざしたまま首を振った。
『いや、やだっ』
『濡らさないと、辛いのは美広だぞ?』
布地の上から、双丘の間をねっとりとなぞられる。
思わず、びくんと身体が震えた。
『何で挿れる前提なんだよっ……』
『だって美広』
隆之が頬を包み込み、親指で唇をなぞり上げていく。
『して欲しいって、顔してる』
そう言って笑む相手に、逆らえない唇がゆっくりと開いていった。
それからここに着くまでの間、気まぐれな隆之によって、美広は快感に翻弄されっぱなしだったのだ。
「あっ……あぁ」
媚肉を掻き乱されると、たまらない悦が身体中を支配する。
がくがくと脚が震え出し、はしたなくも大きく股を開いてしまう。
「く、ふぅん……」
下半身の布を開かれると、すっかりと勃ちあがった股間のものが晒される。
先端からはとぷとぷと愛液が滲み、よだれを垂らす。
刺激を待ち望み健気に震えるそれに伸ばされた男の指が、触れるか触れないかの距離で止まった。
「美広、ここ外だけど、いいのか?」
隆之はいやらしく笑みを浮かべている。
答えなど分かり切っている癖に、聞くのだ。
後ろの刺激は性感を高めるが、射精には至らない。
あまりに熱く高まった身体に、選択の余地などありはしない。
「いい、お願い、お願い……」
美広はのぼせ上がった頬を染め、瞳を潤ませて懇願した。
「いいって言ったのは、美広だからな」
腹につきそうなほど反り返った屹立を、大きな手に包み込まれる。
蜜を掬われ、裏筋をじっとりと撫で上げられると、もうそれだけで気持ちが良くて、腰を突き出してしまう。
「はぁ……ん」
美広は熱い息を吐き出した。
背後の大木を両手で掴み、刺激に耐える。
濡れた陰茎はぐちゅぐちゅと鳴り、胎内の玩具と共に鼓膜から美広を犯す。
敏感な先端を執拗に摩られるとぞくぞくとした愉悦が背筋を駆け上がっていく。
「あっ、待っ……て、何かへ、んっ……」
追い詰められていく身体に、射精感とは異なったものがある。
これはまるで――
「だめ、やめ、あ、あ――っ!」
ぷしゃっと、先端から液体が溢れ出た。
それはちょろちょろと次いで絶え間なく漏れ出る。
「や、あぁ……見ないで、見ないでぇっ」
美広はがくがくと身を震わせながら、隆之の手をとめどなく汚していく体液に、羞恥のあまりに涙を零した。
「美広、お漏らししちゃったんだ」
カッと顔が熱くなる。
隆之がしとどに濡れた指先を見せつけるように、長い舌で舐め上げている。
「あ……舐めちゃだめ、汚い……」
美広が必死に首を振ると、涙が散って辺りに落ちる。
恥ずかしさのあまりに消えてしまいたかった。
「美広が汚したんだよ」
「あぁ……ごめんなさい……ごめんな、ひぃっ――」
振動が更に強くなり、その衝撃で媚肉が玩具をきつく締め上げる。
すると、快感をよりはっきりと覚えてしまい、こらえ性のない蜜口から、また失禁してしまう。
「本当、美広はいけない子だなあ」
背中を木に預けたまま、両脚をぐいっと担がれる。
身体を支えるものが木と隆之の腕だけになり、美広は思わず相手の身体にしがみついた。
尻のあわいに、ぬるりと濡れた感触がある。あまりの熱さに背筋が震えた。
「いけない子は、お仕置きだ」
隆之の美広よりも遥かに長大な昂りが、双丘の間の窄まりを捉えた。
美広はしがみついたまま、焦りを感じて背中を叩いた。
「だめ、だめ、まだナカに挿って……はぅ、ん――っ!」
抵抗は聞き入れられることなく、ずぷりと熱杭が肉環を掻き分けて侵入してきた。
昨日さんざんと教え込まれた男の形を、窄まりは容易に受け入れる。
そのままぬぷぬぷと押し這入られ、圧倒的な存在感が腹の中を満たしていく。
「はぁん……」
淫具が更に奥で震え、美広は身体中を包み込み、頭が蕩けそうになる快感にため息を漏らした。
「なあ美広、分かるか? まだ半分だ」
隆之の囁きに驚愕して目を瞠る。
今届いているところまでで、もういっぱいいっぱいなのだ。
隆之の張り出した部分で、浅いところをぐちゅぐちゅと抉られる。
「全部挿れるぞ」
ずずずと沈められていく感覚に、美広は泣きながら頭を振って哀願した。
「やだ、だめなとこ……届いちゃ――だめ、やぁ、あ……だめ――っ!」
ずちゅんと淫具と共に最奥を抉じ開けて剛直が叩きつけられた。
身体のあり得ないほど奥底で玩具が震えている。
あまりの刺激に脳の中が一瞬ショートし閃光が走る。
反った喉から言葉にならぬうめき声が漏れた。
「――~~!」
深い絶頂の波にさらわれて、目の前が白く染まったまま数秒戻ってこれなかった。
「きっついな……」
隆之が低く呻く。
肉洞は中の男のものを食いちぎらんばかりに締めあげていた。
そこを抉じ開けるようにぬぷぬぷと引き抜かれ、再びずちゅんと擦り上げられると、もはや男根は凶器でしかない。
「ひいぃっ……イって、からぁうご……ちゃだめ……」
過敏になりすぎた内壁から与えられる快感は凄まじく、美広は一突きごとにがくがくと身体をわななかせた。
身体の細胞という細胞が刺激に震えている。
揺さぶられながら襟を開かれ、触られてもいないのにぷっくりと勃起した乳首が晒される。
紅蕾を舌で軽快に弾かれた。
「やぁ……、ちくびっや~~あぁ」
元々感じやすいところから、稲妻に打たれたかのような衝撃を受けた。
今や美広の全身はどこを触れても敏感な性感帯である。
「イっちゃうっ、イちゃっ……んん――!」
「今イってるだろ」
ふっと笑った隆之の乳首にかかった吐息さえ感じてしまう。
最奥を突き上げられながら、突起を甘噛みされ捏ねまわされて、美広は恥も外聞もなく髪を振り乱し淫らに喘いだ。
「美広は本当いやらしい身体だな。ずっとドライでイってる」
赤く腫れた乳首を引っ張られながらくりくりと揉まれると、甘い快感が鋭く腰の奥に響く。
「この乳首もオンナノコみたい」
美広はもはや隆之の声が聞こえても、言葉の意味が理解できなかった。
涎を口の端から零しながら、隆之の首筋にしがみつき、さらなる快感を貪るように腰をくねらせる。
「はぁ、あっ……あんっ――きもち、きもっ……ちぃ」
「美広」
突然ぴたりと隆之の動きが止まってしまう。
美広は焦点の合わない蕩けた目で相手の顔を見た。
「えっちすき?」
「んっ好きぃ……」
「俺に抱かれたかった?」
「うん……隆之さん、好きぃ……ねえもっと……もっと……」
相手の腰を足でしっかりと絡めぐっと引き寄せる。
きゅうきゅうと蠢く内側で、男のものをねだるように絡めとる。
隆之は目を細めると、噛みつくように口づけてきた。
舌を差し出すと肉厚の舌で舐めとられる。
相手の唾液が送り込まれてきて、喉の奥を伝って落ちて行く感覚が心地いい。
熱い熱い隆之の口内の温度に、全身が溶かされてしまいそうだ。
「ぁ……ふぅん」
頭を抱えて、何度も何度も角度を変えて唇を重ねる。
なんだか恋人同士みたいだ、と、働かない頭で考えた。
「おーい、美広―」
突如、聞き覚えのある声がやや離れたところから聞こえた。
この場にそぐわぬ間の抜けたそれに、びくりと身を震わせる。
「おーい? 全く、美広と隆之はどこ行ったんだ」
顔を見なくたって分かる。父さんだ。
「しー」
隆之は口の前で人差し指をたて、静かにするよう促した。
そして美広の口元を片手で覆うと――ずちゅんと勢いよく男のものを突き上げてきた。
「――~~っ!」
あまりの衝撃に目の前でフラッシュが焚かれたかのように景色が真っ白に染まった。
脚の爪先までぴんと力が入る。
その間にずるずると男根が引き抜かれ、再び貫かれる予感に美広はしきりに首を振った。
ダメ。ダメ。お父さんにバレちゃう。聞こえちゃう。
瞠目した瞳から雫が弾け隆之の大きな手に落ちる。
ぎりぎりまで抜けた凶器の先端が、再びぐちゅん! と深く沈められた。
「はぁんっ……!」
凄まじい快感に、手で押さえられても堪えきれぬ喘ぎが漏れた。
「美広……?」
父さんの声が、こちらの方に向けられたのが分かった。
心臓が跳ね上がり、まるで耳の横にあるかのようにうるさく喚く。
ダメ。こないで。こないで、父さん。
草むらを踏む足音がどんどん近づいてくる。
全身を伝う汗が熱いものから急速に冷たいものに変化していく。
「美広ー」
父がその角を曲がったら、あられもない姿の美広も美広を抱える隆之も見えてしまうだろう。
ああ、もうダメだ――。
美広はぎゅっと固く目を瞑った。
――その時、高く涼し気な音と共に一つの光の筋が天に打ち上げられた。
少しの間を置いて、小気味のいい破裂音とともに夜空に大輪の華が咲く。
辺りが一瞬明るくなり、振り返った隆之の横顔が照らし出された。
正円を描いた赤い光は柳のように垂れ下がり、たちまち宙に散っていく。
「おお」という、父の感嘆の声が聞こえた。
「お父さん、美広見つかった?」
足音と共に、新たな存在が現れる。
「あぁ、こっちにはいなかったよ」
「全く、どこに行っちゃったのかしら」
間違えるはずもない。母さんだ。
「まあしばらくしたら連絡を寄こすだろう」
夜空を彩る華は次々と打ち上げられ、咲き誇り消えていく。
その度に辺りが赤や黄や青に染まった。
「……こうしてると、出会った頃を思い出すな」
「ふふ、義之さん……今も変わらず愛してるわよ」
「俺もだよ」
少しの間の後、二人の密やかな笑い声が響く。
そして足音が遠くなっていった。
美広は詰めていた息を吐き出して、胸を撫でおろした。
「隆之さん、何で……」
父さんにこの状況を見られて困るのは隆之とて同じのはずだ。
「美広」
隆之は美広の問いには答えず、もとより低い声を一段と低くした。
今まで見たことのない色を映した瞳に射抜かれて身体が強張る。
そこには激情と言う名の焔が宿っている。
「ひっ……やぁんあっ、あぁ――!」
隆之はかつてないほど激しく奥を突き上げてきた。
あまりに獰猛な抽挿に驚き、肩にぎゅっとしがみつく。
しかし美広は知っている。隆之の瞳に映るのは、嫉妬の色だという事を。
なぜなら、美広は見てしまったのだ。
隆之が元妻と別れた二年前、父さんにキスする隆之のことを。それを冷静に受け止め、何事もなかったかのように振舞った父さんのことを。
美広が隆之への気持ちを自覚したのも、その時だった。
「美広っ……出すぞ」
切羽詰まった呻きに相手の髪の隙間に指を差し込んだまま握りしめる。
「はぁっ、あぁ、いっぱ……ちょう、だ、~~――!」
ずんという衝撃と共に最奥に熱い飛沫が放たれた。
時同じくして美広も大きく身体を反らし極める。
どくどくと脈打つ男根をきつく締めあげた内壁で感じてしまう。
「あぁ……っ」
長い射精を終え男のものが引き抜かれると、ごぷっと精液が漏れだした。
蕾から垂れた紐をずるずると抜かれ、玩具を取り出される。
「ううう……」
敏感になった媚肉を乱される快感に身悶えた。
滑らかな白磁の太ももの内側を、白濁がゆっくりと伝っていく。
美広は肩から襟がずり落ち、かろうじて腰の帯で止まったはだけた衣服のまま、木にもたれ、荒い呼吸を繰り返した。
「美広」
頬を包み込まれ、唇から垂れた唾液を親指で拭われる。
「明日も明後日も……する?」
これは、イケないことだ。
僕の気持ちも、隆之さんの気持ちも。
頭では、分かってる。
しかし囁きは美広の鼓膜に甘く蕩け、心臓の鼓動を速まらせた。
今受け入れていたものの不在を嘆き、欲張りな後孔はきゅんと収縮する。
濡れた瞳で相手を見上げ、頬ずりをした。
返事の代わりに相手の親指をちろりと舐め、口に含み、しゃぶりつく。
ふっと笑んだ隆之の吐息がかかった。
打ちあがる、花火の音が遠くなる。
地面に落ちた二つの影は、再び重なり合った。
イケないことは、イケないから、気持ちいいのだ。
そしてこんなにも気持ちいいいことを、人は簡単に、やめられない。
<了>
*
ご高覧ありがとうございました。
秘密の共有というキーワードを自分なりに調理した結果、倫理観どこに置いてきた?という感じの二人でしたが、お楽しみ頂けたら嬉しいです。
本当はもっと、いちゃいちゃ、らぶらぶにしたかったのですが…(言い訳)
感想などはよろしければTwitterにお寄せくださいませ。@sara0sara01
えっちでしたの一言で、感激大号泣にございます。
ありがとうございました。
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