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荷解きは思った以上に時間がかかった。独り暮らしを始めてからそれなりに長いので、荷物も多かったのだ。
日が暮れ始め、空が静かに紅く染まってゆく。まだ開けていない段ボールもあり、全て片付け終えるまでにはもう少しかかってしまいそうだ。さすがに疲れて、一息つこうかと思ったとき、外から車のエンジン音が聞こえてきた。ちらりと外を見てみれば、一台の軽自動車が止まっている。ほどなくして、玄関のチャイムが鳴った。
「お世話になります、「秋嶋時計店」の秋嶋で――……」
扉を開けて、志鶴は目を丸くした。やってきたのは、あの青年だったのだ。志鶴を田所の店まで案内してくれた、彼。
「……きみ、時計屋の店主だったの?」
「田所さんに用事があったのって、ここを借りるからだったんですか……」
彼は苦笑いをしながら名刺を手渡してくる。そこには、店の情報や、難しそうな資格の名前、そして――「秋嶋 海」という名前が書かれていた。
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