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いや、悪いからいいよ。そう言おうと思ったが、寸でのところで志鶴は口を噤んだ。彼の言葉は親切心からというよりは、志鶴と親交を深めたいという気持ちからくるもののように思えたのだ。彼の目は泳ぎ、唇に少しだけ力がこもっている。あからさまに、緊張している様子だった。
仲良くなりたいと思われるのは悪い気がしないし、断る理由も特にない。「じゃあ、少しだけ手伝ってもらっていい?」と言ってみれば、海は嬉しそうに「はい」とうなずいた。
*
昼間のうちに大体は終わらせていたので、残りの荷物を片付けるのにはそう時間はかからなかった。段ボールもあっという間に最後の一箱になって、終わりも目前に見えてくる。
上部に「その他」と雑な字で書かれたその段ボールには、志鶴も何を入れたのかよく覚えていない。服でも本でも台所用品でもなんでもない、分類しがたいものをまとめていれたという記憶しかなかった。しかし、そうは言っても、見られて困るようなものはいれていないはずなので、隣で海が見守っている中、開封してみる。
「……あー、参ったな、これはどうしよう」
中に入っていたのは、大学の卒業証書や会社のマニュアル等、微妙に扱いに困るものだった。捨てるわけにもいかないが、今後使うことはほとんどないだろう……そういった類のものである。
「前のマンションではどうしていたんですか?」
「机の上に積み重ねていたような気がする……」
「……思ったより雑ですね?」
「うるせえよ。いい感じの収納ケースとか買ってくるか……この辺って家具屋とかホームセンターとかあるの?」
「うーん、車を走らせれば……ありますよ」
「俺、車持ってないよ。っていうか車って買った方がいい?」
「田舎は車がないとキツいですよ~。バスとか電車もあるにはありますけど……本数少ないですし」
「そっか……」
志鶴は段ボールの中に入っているものを一通り確認すべく、中を漁る。しかし、漁れば漁るほどに、出てくるのは置き場所に困るものばかりだ。
「あ、それなんですか?」
「ん?」
「その……鎖っていうか……」
段ボールの中をのぞいた海が、何かを指さす。その先には、錆びついたチェーンがあった。「あ」と声をあげながら、志鶴はそのチェーンを引っ張り上げる。
「――懐中時計」
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