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 チェーンの先には、小さな円盤のようなものがぶら下がっている。これは――懐中時計だ。どこもかしこもぼろぼろに錆びついていて、一目で古いものだとわかる代物。  志鶴はそれをあまり見ていたくはなかったが、海が興味を示している様子だったので、彼に手渡してやる。懐中時計を手放した指先には、血のような錆が付着してしまっていた。 「あ、すごい、これ。いい時計ですね」 「……。ぼろぼろだけどな」 「う~ん、でも、錆ならある程度落とせますし。やろうと思えばもう一度動かすこともできますよ。修理代高くつきますけど」 「……いや、それはいいよ。それにしても、きみはどんな時計でも、もう一回動かせるんだね」 「……」  するりと海の手から時計を取り上げて、再び段ボールの中にしまう。中に入っているものの片づけは今日のところはあきらめようと段ボールを閉じてしまえば、じっと海が志鶴の顔を見つめてきた。 「……あの」  ばち、と視線が交差して、志鶴は瞠目する。何かを言いたげな、それでいて重々しそうな唇は、見ていると焦れったかった。

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