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「……。あ、いえ、なんでもないです。それより……よければ、このあとご飯にでもいきませんか。丁度いい時間だし」 「ん……そうだな、じゃあ」  海は何かを言いかけたが、結局その言葉はでてこなかった。にこっと笑ったその顔は、どことなくうつろで、作り笑いであることは明白だ。  何かを隠しているのだろうか。いや、――言い出せなかったのか。  海の胸の奥にある何かの存在の匂いを嗅いだような気がしたが、志鶴はそれに気付かないふりをした。言いたくないことだってあるし、言う必要のないことだってある。それは――志鶴自身が一番わかっている。 「いい店、知ってるの?」 「この辺は居酒屋ばかりですけど、味はけっこういい店が多いんです。あ、僕は運転するのでお酒は飲みませんけどね」 「ふうん、じゃあ、おすすめの店に連れて行ってよ」 「はい」  志鶴は閉じた段ボールを抱えると、部屋の隅まで移動させる。外に出る支度をしようとふと手のひらを見れば、指先に、時計の錆が少しだけついていた。 「……手だけ、洗ってくるね」

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