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 少し車を走らせると、海岸に面した堤防があった。近くに車を止めて、二人で海岸まで下りてゆく。  夜の海は、昼の海とはまた違う空気を漂わせていた。静かで、音のない歌が奏でられているかのような。真っ暗な闇に足が取られそうになるが、その闇には不思議と寂しさや寒さを感じない。  ざあ、と(さざなみ)の音が聴こえてくると、海は照れ笑いをした。男二人でこのような場所に来たことに、こそばゆさを感じたのだろう。  「……あ、……はは、なんかすみません」  海は伏し目がちに、指の背で唇をこする。むずむずとしたようなその表情は、彼の不安や恥じらいが染み出ていた。彼は親切で、初対面の志鶴にも気兼ねなく接してくれていたが、実はそれほどひらけた性格ではないのだろう。雰囲気に呑まれているその様子がなんだかいじらしかったので、志鶴はぽんぽんと彼の頭を撫でてみた。そうすれば、海ははっと目を見開いて、志鶴を見上げてくる。 「あ、いやだった?」 「いっ、いえ。……その、」  唇をぎゅっと結んで、今度は舐めて、海は落ち着きがなく黙り込んでいる。思えばそこまで歳の差が開いていない同性の相手の頭を撫でるのは、おかしかったかもかもしれない……そう思って志鶴は反省したが、海は嫌がっている様子ではなかった。まつ毛を震わせて、唇を開いたり閉じたり、浅い呼吸を繰り返したかと思うと、やがて、ゆるりと唇を開き、か細い声でつぶやいた。 「……もっ……、もう少し……撫でてもらってもいいですか」

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