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 上擦った声でそう言うと、海は「あ~」となんとも言えない声を吐き出した。相当恥ずかしいのだろうか、手を開いたり閉じたりを繰り返しては、手汗を拭くように手のひらをズボンにこすり付けている。  志鶴はそんな彼を可愛らしく思い、わしゃわしゃと髪の毛をかき混ぜるように思い切り撫でてやった。海は「わっ」と言いながらも、頬をほころばせて笑っている。  ――その笑顔が、志鶴の目に、愛らしくも何故だか切なく映る。 「……何か、あったの?」  志鶴が問う。  海はぱち、と瞬きをして、ふっとあきらめたように笑った。ここまでくれば、吐き出してしまったほうが楽だと悟ったのだろう。頭の上に乗っている志鶴の手に自分の手を重ねると、「たいしたことじゃないんですよ」と一呼吸おいて、呟く。 「僕、名前負けしているなあって」  海は夜空と波間の狭間でぼやける地平線を眺めて、言葉を紡ぐ。 「この名前は、海のように優しくて強い人になってほしいって意味が込められているんです。でも僕は、この海のように大きな存在でもないし、平凡で弱い人間なので……」 「……そりゃあ、地球を覆っているような巨大なものと比べたら、誰だって小さいってことになるんじゃない。べつに、ここまでデカくあってほしいとは、秋嶋くんの親だって思っていないでしょ」 「あはは……そうですね。うん、そうなんですけど……。でも、僕は人並みにもなれないんです。近くに困っている人がいたり、悲しんでいる人がいても、本当はあまり関わりたくない。自分のことでいっぱいいっぱいで……他人に気をかける余裕なんてないんです。でも、僕は弱さを見せるわけにもいかないから、大人ぶらなきゃいけなくて。時々、心が折れそうになっちゃって」  ふ、と海は視線を落とす。  ものすごく大人びて見えるわりには、時折少年のような表情を見せる――志鶴は海のことをそんな風に思っていたが、彼の話を聞くとなんとなくその理由がわかったような気がした。彼は、大人ぶろうと無理をしていただけなのだ。  何が、彼をそうさせたのだろう。 「あー……ほんと、たいしたことじゃないんですよ。僕がこんな風に考えているのだって、その理由はしょうもないことで、」 「きみにとってはしょうもないことじゃないから、悩んでるんでしょ」 「……、」  海がちら、と志鶴の顔を見上げてくる。少し、力が抜けたような表情をしていた。  海は笑って、「ありがとうございます」と言うと、またざあざあと音を立てている波打ち際を見つめた。そして、静かに自分の昔のことについて、話してくれた。

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