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海の親は、母親ひとりだった。幼いころから、ずっと母親がひとりで面倒を見てくれていたので、海は父親の顔を見たことがない。物心がついた時に、なぜ自分には父親がいないのかと尋ねたことがあったが、「すぐに別れちゃったんだ」としか教えてもらえなかった。
母親の名を、千恵という。美しく、優しい母親だった。
千恵は海を育てるために、苦労していた。ずっと働きづめで、休まるときはほとんどない。しかしそれでも、千恵は海と一緒にいるときは幸せそうだった。
海はそんな千恵のためにも、はやく大人になろうと思っていた。迷惑は絶対にかけないようにいい子でいようと努めたし、心配をかけないように学校でもたくさんの友人をつくっていた。本当は内気で、のんびり屋な性格だったので、少し辛いと思うこともあったが、それが母親のためになるならと、頑張ることができていた。
そんな毎日が一変したのは、海が高校を卒業した時だ。
『言わない方がいいのかなって本当は思うんだけど……隠しておいて、あとから傷ついたらもっと嫌だなって』
千恵が、とある告白をしてきた。
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