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「お母さんから、父親についての話を聞いたときから、僕、なんだかわからなくなっちゃったんです」  自分の生まれについて話をしてくれた海は、ぼんやりとした目で深い夜空を移す波間を眺めていた。 「お母さんは、ずっと僕を大切にしてくれていました。昔も、今もです。でも……僕は、産まれることを望まれない子供だったのかって思うと……自分の命が、ここにあってもいいものなのかってふと思ってしまうことがあります。お母さんは、絶対にそんな僕の疑いを、否定すると思います。お母さんは確かに僕のことを愛してくれているので。だからこそ――この気持ちが、消化しきれない。いっそ、お母さんが僕を嫌ってくれていたなら、このもやもやとした気持ちは、恨みとか悲しみとか、そういったものになっていたと思うのに。僕の命が否定されていた事実は、どこにも行き場がなくて、ずっと僕のなかだけでぐるぐるしているんです」 「――……」 「(うみ)のような人で居てほしいって願いを受けて、僕自身もお母さんのために立派な大人になろうって思っていて。がんばっているんですけど……不意に、この体が、産まれるその前まではこの世に在ってはいけなかった体なんだって思っちゃって、その事実が苦しくて。海のような人間になんてなれない。僕は僕自身のことだけで、精一杯。それでも、海のようでいようって虚勢をはっている自分が、僕は……嫌いなんです」

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