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 息が苦しくなるような心地だった。夜空の下、闇の中――志鶴は、仄かな夜光に輪郭を縁どられた海の横顔を見つめる。  ……なるほど、無理をしていたのか。  海の苦しみは、どうしようもないものだろう。過去にあったことを変えられないと知りながら、彼は苦しんでいるのだから。心の中で折り合いをつけられるかられないか、ただそれだけの話なゆえに、つけることができない彼は、出口のない迷路に閉じ込められているような状況にある。だからこそ無理をして、なんでもないという風にふるまって――ひとり、彼は追い詰められてしまっているのだ。 「……大人の男性に憧れているって言ったじゃないですか。それ、僕自身が大人になれないからなんです」 「……」 「その……南丘さんと仲良くなりたいって思ったのも、南丘さんと一緒にいたら少し心が楽になるのかな、なんて思ってしまって。同年代の人とか、女性とかといると、どうしても無理をしてしまうんです。大人の男性なら周りにもたくさんいますけど、なにぶん田舎なもので、その人たちに甘えたりしたら、すぐにお母さんにそのことが伝わっちゃう」  思い返せば、海は自らを内向的だと称するわりには、積極的に志鶴と距離を縮めようとしてきた。その理由は、今の話を聞けばすべてわかってしまった。彼にとって、素を見せられる相手が志鶴しかいなかったのだ。年上の男で、この地域の人間とほとんど関わりを持っていない、志鶴しか。  それほどに、海は大人のふりをすることに疲れてしまっているのだろう。 「……つまり、秋嶋くんは俺に甘えたいの?」 「……」  海は志鶴の言葉を聞くなり、黙り込む。そして、ぱっと志鶴の顔を見つめて、ハッとしたような顔をする。 「えっ、……あれ、僕そんなこと言いました?」 「むしろそう言ったんじゃないの?」 「えっ、ええっ……い、いや……あれ、言ったの、かな」  途端に、海は顔を真っ赤にした。この暗がりの中でもはっきりとわかるくらいに、肌が上気している。  海自身は、ここまで言っておきながら、無意識だったらしい。  

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