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「過去のことって変えられないし、今をどうするかしかないんだよね。って言っても、割り切ろうって思いこむなんて難しいし。自分の心を操れるほど、人って器用じゃないし。それなら、素直に甘えられる人をひとりでも作っておくと変わってくるんじゃない」
「……」
ぱち、と海は瞬きをする。しかし、すぐにふいっと視線を落とすと、もごもごと唇を噛んで、ぼそぼそとした声でつぶやく。
「で、でも……23歳にもなる男が甘えるのってどうかと思うんですけど……」
「それは思い込みだよ。っていうか秋嶋くんって23なんだ」
「うう……」
海がずりずりと後ずさりをする。無意識のうちに志鶴に甘えようとしていたことが、今更になって恥ずかしくなってしまったようだ。
それほどに、彼は甘え方を知らない。
「あっ、南丘さん⁉」
志鶴は遠慮なしに海に近づいていき、距離を縮める。そして、ぎょっと顔をひきつらせた海の腕を軽く掴んで、そのまま、抱きしめた。
「……っ」
「ハグされたことある?」
「……、大昔になら……。あとは、……ハグは、される側じゃなくてする側でした」
「彼女とか?」
「……はい。今はいないですけど」
「そ。じゃあ、されてみて、感想は?」
「――……」
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