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もうすぐ日付が変わる頃、海の車に送られて志鶴は家に到着した。あたりは街灯も少なく、真っ暗だ。きっと23年分の涙を流した海に寄り添った後、他愛のない話を続けていたら、気付けばこんなに遅い時間になってしまっていた。
志鶴は送ってもらったことにお礼を言うと、車を降りようとシートベルトを外す。もう少し話をしてもよかったが、彼は明日から仕事がある。今日のところはもう別れたほうがいいだろうと、志鶴はあっさりと車を降りようとした。
しかし、その瞬間、海が上擦った声で志鶴を呼び止める。
「あっ……ま、待ってください、志鶴さん」
「ん?」
海に視線をやれば、海はまた唇をぎゅっと結んでもじもじとしている。彼は唇に感情が出やすいな……と志鶴は妙に冷静な気持ちで彼の表情を観察してしまった。そういえばまだ連絡先を交換していなかった――そう気づいて、志鶴はスマートフォンを取り出すべくポケットに手を突っ込む。しかし海の口から出てきた言葉は、思ったものとは違っていた。
「あ、あの……あの~……その。最後に、もう一回……だっ、……抱きしめて、もらえませんか」
海は「あ~」と絞り出すような声をあげながら、ハンドルに額をくっつける。クラクションが鳴りそうでひやっとしたが、それ以上に率直に甘えてきた彼を可愛らしく思って、志鶴はふっと笑ってしまった。
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