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「今日、うちに泊まっていかない?」
「……へっ」
海があまりにも名残惜しそうにしているので、家に誘ってみる。そうすれば、海はカッと顔を赤くして、勢いよく志鶴と距離をとった。ごん、と後頭部を窓ガラスに頭をぶつけていたので、志鶴は心配になって苦笑いをする。
「とっ、泊まっ……い、いや、あの、程度というものを……これ以上甘やかされたら、だめになります……」
「べつにいいじゃん。俺の前では、だめにでもなんでもなっていいよ。思いっきり、甘やかしてあげる」
「いっ、いや、……いやいや、……そんなの、だめですよ……」
「そう? 俺はいいと思うけど」
「……、し……志鶴さんの、迷惑になりませんか……?」
「なるならこんなこと言ってない」
「で、でも~……」
海はもぞもぞと落ち着きなく身じろぎをしている。「いや」と言ってこないのと、物足りなそうに自分の腕や手を触っているところを見ると、本当は志鶴の温もりを求めているのだろう。なかなか頷けないのは、彼の中に残る一抹の矜持のせいだろうか。
強要することでもないので、志鶴は黙ってそんな海の様子を眺めていた。しばらく海はもごもごと言葉ならぬ言葉を言ったり唸ったりとしていたが、やがて、志鶴の視線に耐えきれなくなったのか、観念したように深くうつむいて顔を隠し、
「……じゃあ、……お世話になります……」
とかすれ声でつぶやく。すぐに「うあ~」と変な声をあげているのを見て、志鶴は吹き出してしまった。
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