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しばらく、そうして触れ合っていた。もぞ、と海が身じろいだので彼を抱く腕の力を抜けば、彼はゆっくりと離れてゆく。ふ、と腕の中に籠っていた熱っぽい空気が消えていったので、少しだけ寂しさを感じた。
「……ありがとうございます」
海は恥ずかしそうにしながら、ぼそぼそとそう言った。その瞳はゆるりと蕩けている。本当に、今まで抱きしめられることはほとんどなかったんだな、と志鶴はわしゃわしゃと彼の頭を撫でてやる。
「とりあえず、シャワー浴びるか。そのあとで、続きしよう」
「つ、続き?」
「もういいの?」
「……っ、よ、……よくない、ですけど……ちょっと恥ずかしくなってきました」
「慣れだよ、慣れ」
「……そうですか……?」
時間も時間なので、いつまでも玄関先にいるわけにもいかない。気恥ずかしさを感じているらしい海を連れて、ようやく志鶴は家にあがったのだった。
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