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 交代でシャワーを浴びて、二人で床に就いた。海ははじめこそは同じベッドで寝ることに抵抗があったようだが、同じ布団にくるまって温もりを共有しているうちに、自然と志鶴に寄り添うようになってきた。 「あの……志鶴さん」 「ん……?」  遠慮がちに志鶴の腕に頭を乗せて、海はぽそぽそと言葉を紡ぐ。志鶴が優しくその髪を撫でているせいか、少し眠そうだ。 「な、なんかこれ……変じゃないですか?」 「変?」 「いや、だって……ただの親切で、ここまでする必要は……ない気がするんですけど……」  海が話すと、息が鎖骨のあたりにかかってくすぐったい。たしかに、その日初めて会った人とこうして抱き合って同じ布団で寝ることが普通なのかと言えば、そうではないだろう。海の言葉でようやく今の状況が普通とは言い難いものであることに、志鶴は気付く。 「でも……別にお互い嫌なわけじゃないんだし、よくない?」 「……志鶴さんは嫌じゃないんですか? こんな……成人済みの男に腕枕なんかして」 「べつに? 海も嫌じゃないでしょ? 俺に腕枕されるの」 「うっ……そ、それはそうですけど……」  特にこの状況について言いたいことがあるわけでもなかったので、志鶴は海の言葉を適当に流した。実際に、志鶴にとって、こうした状況に陥ることはそこまで潔癖になるようなことでもない。今までも、一期一会の夜に熱を交えたことなど何度でもあった。むしろ、今の状況はそれよりもずっと穏やかだ。  しかし、海は納得していないようだ。「ん~」と小さく唸ったりしていて、歯切れが悪い。 「俺が仕方なくこういうことやってるって思ってる?」 「だって……僕が女ならまだしも……僕のためって理由だけで、こういうことしてくれるのは……優しすぎるなって」 「なんで女ならいいの?」 「えっ⁉ だって……ほら、あわよくば、っていうのだってあるし……異性なら一緒に寝るのも普通っていうか」 「……べつに、損得でやってるわけじゃないし……きみが女だろうが男だろうが、どうでもいいし。なんなら、こうしてきみを抱いていると、あったかくて気持ちいいし」 「えっ、ええ~……」 「重くとらえすぎでしょ、一緒に寝ることくらい」 「都会人と田舎人の差ですか?」 「違うと思うけど……」  海は志鶴の親切心は少し過剰だ、と考えているようだ。「優しすぎる」というのは今までも何度か言われてきたので、海の考えていることを志鶴も理解はできた。今までも、誰彼構わず身を挺して親切にしようとすることに疑問を抱かれることは、少なくなかったのだ。 「あんまり気にしなくていいよ。俺の取り柄、これくらいしかないんだ」 「志鶴さんがいいなら、いいんですけど……」 「俺のこと気にかけてくれているの? いいって言ったじゃん、きみは、俺に甘えてくれればいいんだよ、ほら」 「わっ……」  ただ、あんまり海に気を使われても、こうしている意味がなくなってしまう。志鶴は彼の気を紛らわそうと、ぐっと彼の体を引き寄せた。そして、軽く彼の頭に口付けを落とす。

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