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Ⅱ 時が止まった人と錆びた時計

 目に映ったものの時の流れが見える。もちろんそれは魔法が使えるというわけではなく、あくまで「感覚として」の話だ。この世の時の流れから切り離されてしまったもの、誰にも必要とされなくなってしまったもの。自ら時を止めたもの。その憂鬱を、感じ取ることができる。  しかし、だから何かあるというわけでもない。時折時が止まったものを視て、ひっそりと感傷に浸ってしまう……それだけのことだ。 「あ……」  一人、海は堤防に来ていた。志鶴と一緒に来てからというものの、時折こうして一人で堤防にくることが多くなった。一様に時が巡り続ける場所。母が祈った場所。海が見えるこの場所は、最近の海にとって、少しだけ安らげる場所だ。  波打ち際に転がっていた瓶を見つける。拾い上げてみれば、中には数枚の写真と錆びた指輪が入っていた。写真は一昔前の画質の荒い写真で、どれも一組の男女が映っている。日付を見てみれば、十年ほど前の日付が刻まれていた。指輪の内側には二人のものと思われる名前が刻まれている。  誰がこんなものを海に捨てたのか。何をこの瓶の中に込めたのだろう。この瓶は――時が止まっている。  海はため息をついて、瓶を元の場所に戻す。きっとこの瓶も、この海に許されることを祈られたのだろう。 「――……」  地平線を眺める。  最近、時が止まった人を見つけた。南丘 志鶴という男だ。

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