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「ぁっ……しづる、さん……」 「ん~?」  無意識に、海は自らの秘部を志鶴のものにこすり付けた。突き上げられている時のような快感を得ることはできたが、実際には挿入されていないので、なかが切なくなってしまったのである。少し堅くなりはじめているそれを挿れて欲しくてたまらなくて、割れ目で挟むようにしてゆらゆらとそこをこすりつけた。 「挿れて欲しいの?」 「……はい」 「いいよ。じゃあ、そこでしようか」 「……?」  志鶴の視線の先には、壁に取り付けられた姿見があった。さっそく、恥ずかしいことをさせられてしまうらしい。海はかあっと顔を赤らめながらも、こく、とうなずく。  志鶴に手を引いてもらって、よたよたと浴槽から出る。今すぐに挿れて欲しくて気持ちが焦ってしまうが、ふと彼のものが視界に入ると、とある気持ちが湧き上がってきた。 「あの……志鶴さん」 「どうした?」 「……少しだけ……口で、してもいいですか? いつも……僕ばかり気持ちよくしてもらっているので……」  思い返せば、あまり彼のものに触れたことがない。いつも一方的に体を愛撫されて挿入されて、そのままイかされて。そればかりだ。海のほうから志鶴に奉仕をしたことがないのである。触れたい、と思ったのと、彼にも満足して欲しいという思いから、海は彼に口淫をさせて欲しいとねだった。  しかし、志鶴の反応は思ったよりも曖昧なものだった。困ったように笑って、ぽんぽんと海の頭を撫でるばかりだ。 「俺は大丈夫だよ。俺は海に気持ちよくなってもらいたいだけだから」 「……」  この言葉を、海は何度か聞いたことがあった。口淫までとはいかなくとも、海のほうから志鶴の体に愛撫をしようとすると、彼はこう言って阻んでくるのである。  触れられるのが嫌、というわけではないだろう。時折海が我を忘れて志鶴の体を噛んだりしても、志鶴は特に嫌がったりはしない。たまらなくなってついペニスに触れてしまったときは、存分に触らせてくれる。ただ、志鶴にもよくなって欲しいという思いで触れようとすると、拒絶される。  志鶴は、本当に、ただ海を甘やかしたいだけなのだ。――自分自身の欲というものがない。 「あの、」  彼に対して抱いていた違和感。時が止まっているように見える人。なんとなく、それと彼の異様な無欲が重なってしまって、海は不安を抱いてしまった。何も求めないで生きるのは、辛いのではないかと。 「……っ、志鶴さん、……ぼ、僕がしゃぶりたいので、……しゃぶらせてください。志鶴さんの、……これ、……が好きなんです、おねがいします……」  海は志鶴にも善くなって欲しいあまり、ただ自分がしゃぶりたいからと理由をすり替えた。しかし実際に口にするのは思った以上に恥ずかしく、声が震えて、涙ぐんでしまう。顔が爆発しそうなくらいに熱くて、目眩がするほどだ。  志鶴は海の言葉に驚いたのか、ぱちくりと瞬きをした。これでまた拒否されたらどうしよう、と思ったが、志鶴は柔らかく微笑んだ。そして、海の頬に触れると、こつ、と額を合わせてくる。 「そうだったの? ごめんね、気付かなかった」 「……すみません、恥ずかしくて……素直に言えませんでした」 「ううん。じゃあ、お願いしていい?」

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