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夕食を食べ終わってから、もう一度セックスをした。平日で、お互いに仕事があった日なので、寝る頃には二人ともぐったりとしてしまっていた。
志鶴の腕に抱かれ、海は微睡む。裸の志鶴の胸に頬を寄せれば、とくとくと彼の心音を聞くことができた。温かい彼の肉体の中、脈動する心臓の音を聞いていると、彼の「生」を感じて安心する。
志鶴とは、ただ、慰めてもらうだけの、そんな関係だった。セックスをして、体をたっぷりと愛でてもらって、そして満たされて。そんな関係に今までは満足していたが、何かが足りないと……どこか、心に隙間風が吹くような感覚を抱いていた。その理由を、今日、ようやく理解することができた。
「志鶴さん……」
志鶴の胸に頬ずりをして、海は熱い吐息を零す。
彼の心の在処など、今までは興味がなかった。それが、自分たちの関係においては正解だと思っていた。しかし、彼の欲望に触れて、その熱視線で心臓を焼かれてしまえば、彼の心の奥底に眠る彼自身のことが気になってしまう。この関係を続けたくて目を逸らしていたはずなのに、彼の心に触れたいと、そう思ってしまう。
目を閉じていた志鶴が、瞼を開く。そして海の頭を撫で、手を取って指を絡めるようにして繋ぐ。「どうした?」といつものように甘やかすような声で囁かれて、きゅ、と胸が締め付けられる。
海はもそりと体を起こして、志鶴に覆いかぶさった。そして、志鶴の頬に触れ……瞳を揺らす。二回も激しいセックスをしたあとで、ぼんやりと熟れた志鶴の瞳は色っぽく、見つめ合うとどきどきとしてしまう。
――あなたの、心が知りたい。
海がそっと口づける。そうすれば志鶴はその口付けに応えてくれた。ぐっと海を抱きしめると体を反転させ、海を組み敷いて、キスを深めてくれる。腰の下に手を入れられ、ぐっと尻を鷲掴みされるようにして持ち上げられ、お互いに下腹部をぐりぐりと押し付け合えば、塞がれた唇からは甘く切ない声がほろほろと零れてゆく。
「あっ……、んっ……んぁっ……、はぁっ……ん……」
もっと志鶴を知りたい。もっと彼と深いところで繋がりたい。
言葉にできない想いが溢れてゆく。その想いが一層キスを激しくしてゆく。
「ぁっ……ん、……ぁんっ……志鶴さ、……志鶴さんっ……」
ギシ、ギシ、とベッドが揺れる。体の繋がりだけを深くしても彼を知ることなどできないとわかっているのに、満たされない心が体を求めてしまう。言葉にすればいいのに、それができない。誤魔化すように、そのもどかしさを劣情で覆い隠してしまう。
二人は何も知らない。自分の心さえも。
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