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*  父親の死をきっかけに、俺と母の関係は悪化してしまった。俺は今までのように夜遅くまで遊ぶようなことはなくなったが、家に帰ってもほとんど母と会話をすることはなかった。  高校は、全寮制の高校を選んだ。母と一緒にいることが辛かったし、家に飾られている父の遺影を見るたびに俺の方が死ねばよかったのにと考えてしまうからだ。  家を出る日、ふと裏庭に父に買ってもらった懐中時計を捨てたことを思い出した。もう父が亡くなってから何か月も経っているので、もうないかもしれないと思いつつ、こっそりと裏庭に向かう。ここでこの時計のことを思い出さなければ、もう一生時計を拾うことはなかっただろう。  幸いにも、時計は捨てた場所にそのまま落ちていた。ただ、雨にさらされ、湿気の多い場所にずっとあったせいか、錆や汚れでぼろぼろになっていた。すっかり錆びついた蓋は開けづらく、壊れないように恐る恐る蓋を開ける。そうすればなんとか蓋は開いて、文字盤が現れた。 「――……」  時計は、止まっていた。長い間野ざらしにされていたのだから当然だろう。しかし、それはどうでもうかった。その針が指し示す時刻に驚いてしまった。  時計が指し示す時刻は、午前1時59分。その時刻は――父が、息を引き取った時刻だったのだ。  きっと、本当にただの偶然なのだろう。しかし、手のひらの中の壊れた時計が指し示すその時間が、まるで俺のこれからの人生を示しているようで。あの瞬間に、俺は生きる資格を失ったのだと言われているようで。がくりと脚の力が抜けて、その場に座り込む。  この先、俺は人並みの幸せを得たいなど祈ってはいけないのだろう。本当はこれ以上生きていたくなんてないけれど、父に救ってもらった命を無駄にすることもできない。真っ暗で灰色のような人生が待っている。これから死ぬまで続く果てしない止まった時間が、ただただ怖くてたまらない。  時計を握り締めて、うなだれる。午前1時59分から、一生動くことのないその時計を。

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