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ずぶ濡れになったあと、二人は歩いて志鶴の家に向かった。濡れた体や服をどうにかしたい気持ちがあったので、本来ならばより近い海の家に行くべきだったのだが、二人とも、二人きりになれる場所を求めていた。
暗い夜道を、手を繋ぎながら歩く。誰かに見られたりしないだろうかと少しひやひやとしたが、思った以上に人通りがない。たまに犬の散歩をしている人や、仕事から帰ってきたと思われる人が現れるので、そのときは慌てて手を離した。そのたびに顔を合わせて笑うと、くすぐったかった。
志鶴は自分の過去を、すべて海に話した。父が自分を庇って亡くなったことも、今まで贖罪のために関係を持った人たちのことも、母との気まずさから転勤を選び東京から逃げてきたことも。話している間、海はずっと志鶴の手をぎゅっと強く握りしめていた。初めてお互いを知っていく感覚はまるで初恋のようで、これまで何度も体を重ねてきたというのに、今更のようにこそばゆさを感じていた。
「志鶴さん。僕、志鶴さんと会う前はずっと大人ぶっていたって言ったじゃないですか。頼りになれる男に見られたくて、優しい人のふりをずっとしていたって。でも、無理をしちゃって、つい志鶴さんに甘やかされたくなっちゃって」
「……、ああ、はじめはそんな感じだったな」
「……はは、思い出すとちょっと恥ずかしいですね。でも、僕……今は、大人ぶりたいとか、優しくしてあげたいとか、そういうのを抜きにして、志鶴さんのことを支えたいんです。……傍に、居たいんです。志鶴さんのことが、好きだから」
「――……」
「やっと……お母さんの言っていたことの意味が、分かった気がします」
志鶴が海の顔を覗き込むと、海はにへっと笑った。愛らしい表情だったが――今まで見た彼の表情の中では、一番大人らしい表情のように思えた。
自分を許せなくなってしまった人が、自分自身を許せるようになって欲しい――そんな、海の母の願いは、叶いつつあるのだろう。海も、そして志鶴も、ようやく見つけた恋に照らされて、自分の幸せを探し始めたのだ。
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