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志鶴の家につくと、二人は無言のままに見つめ合う。ここまでの道のりの中で、少しずつ少しずつ、お互いへの想いを募らせてきた。志鶴の家に近づくほどに言葉数は少なくなっていき、心は逸 っていった。玄関を入り、扉を閉め、鍵をかける。そこで見つめ合えば、抑えるには熱すぎる劣情が、脈動する。
「……、」
こく、と海は唾を飲んだ。玄関先でキスをしたことは何度かあったが、今日はなぜか志鶴の胸に飛び込んでいけない。今すぐに彼にキスをしたいくらいに胸は彼への想いであふれているというのに、足が動かないのだ。
「……志鶴さんって、そういう顔……するんですね……」
志鶴があからさまな劣情を海に向けたのは、これが初めてだ。今まで、たまにセックスの最中に彼の欲がむき出しになったことはあったが、こうして彼自身が自覚している劣情というのは、これが初めてだ。海は志鶴にそうした目で見られるのが初めてだったので、あまりにもドキドキとしてしまって身動きが取れなくなってしまったのである。
海がゆっくりと志鶴の胸板に手のひらで触れる。海水でじっとりと湿ったシャツの下で、ばくんばくんと心臓が鼓動している。
「そういう顔って……?」
「ん……」
志鶴が海の唇に触れる。ぴく、と海は震えて、揺れる瞳で志鶴を見つめた。志鶴はこつ、と額を合わせて、そのままの至近距離で、囁く。
「俺、ちゃんと人を好きになったのが初めてだから、わからないよ」
「……志鶴、さん」
「……俺がどうなるのか、わからない。抑えられなかったら、ごめんね」
「あ……」
志鶴が海の唇を舐める。海がゆっくりと唇を開くと……そのまま、海の唇が蕩けてしまうような、あまいキスを仕掛けた。海の舌をすくいとり、たっぷりと舐め、甘い音をたてながら唇をついばんでゆく。焦がすような恋情をそのままぶつけるようなキスに、海はあっという間に腰が砕けてしまって立っていられなくなってしまった。志鶴の背中に腕を回し、体をこすりつけるようにして必死に志鶴にしがみつき、それでもキスを受け止める。
「ん……、ぁ、……ん、……んん……」
海はうっとりとしながら、志鶴と舌を絡めた。顔が火照ってきて、自分が何をやっているのかもよくわからなかったが、キスがあまりにも気持ちよくてずっとこのままでいたいと思ってしまうほどだった。じんじんとする腰を志鶴にこすり付けながら、甘い声をあげて志鶴にもっと深いキスをおねだりする。
「ぁっ……志鶴さん、……こんなところで、……」
志鶴が海のシャツのボタンを外してきた。今すぐにでも体を交わらせたかった海は脱がされることに歓びを感じたが、やはりどうしても玄関先でするのには抵抗があった。恥ずかしさもあるが、今の自分の体の火照り具合を考えると、ベッドの上で足腰が立たなくなるまでめちゃくちゃにされたかったのである。脱がされた部分が切なくて、露わになった肌を志鶴の体にこすり付けながらも、海はなんとか志鶴の手を払って抵抗する。
「だめ……志鶴さん、ベッドで、しましょう……?」
「ごめん、待てなくて……」
志鶴は海の抵抗に気付くと、熱に浮かれた目をしながらもなんとか手を止める。そして、ぎりぎりの理性を引きずり出すようにして、海の手を掴むと余裕なくそのまま寝室へと連れてゆく。
「あ、……志鶴さん、……シャワー、浴びないと……ベッドが、汚れちゃいませんか、……」
「どうせシーツを取り換えることになるんだから、いい」
「……っ、僕、どうされちゃうんですか……?」
「……ごめん、わからない……ごめん……」
「あっ……!」
寝室に入った瞬間、志鶴は海をベッドに寝かせる余裕もなく、立たせたまま服を脱がしてしまう。海はこうもぐちゃぐちゃに服を脱がされたことがなかったので、その熱量に体の奥が疼いてしまって、脱がされながら体をくねらせ喘いだ。肌が露わになっていくごとに、これからされることへの期待がどんどん昂っていって、体が敏感になってゆく。海も一刻も早く志鶴に抱いてもらいたくて、覚束ない指先で必死に志鶴の服を脱がしていった。
「志鶴さん……志鶴さん、……」
「海――……」
服は湿っていて、脱がしづらい。それが余計に二人を焦らさせる。ようやく二人は全ての服を脱ぐと、脱いだ服はぐしゃぐしゃと床に投げ出したまま、裸でぎゅっと抱きしめあった。
「あぁっ……」
二人はお互いをぎゅっと抱き込むようにして、隙間なくぴったりと体を密着させる。二人の肌は灼熱のように熱く、ただ抱きしめあっているだけでも汗がにじんでくる。まるで肌が溶けてしまうような感覚が心地よく、お互いの体が心臓の鼓動に合わせてどくんどくんと脈動していることに興奮し、何もしていないというのに二人は昂ってゆく。
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