78 / 81

39

*  電子音で、志鶴は目を覚ました。いつの間にか、眠っていたようだ。昨晩のセックスが激しすぎて、最後の方の記憶が曖昧になっている。定期アラームがなかったら、危うく寝坊をするところだったかもしれない。 「……」  海はぐっすりと眠っていた。いつもよりもずっと激しく抱いたのだ、体への負担は相当なものだっただろう。今更のように志鶴は申し訳なく思って、海をそっと抱き寄せると頬にちゅっと優しくキスをする。 「ん……」 「あっ……悪い、起こしちゃった?」 「しづる、さん……?」  海は寝ぼけまなこで志鶴に微笑みかけてきた。志鶴は苦笑して、きゅ、と海の鼻をつまんでみる。そうすれば海は「んーっ」と悶えてきたので、その様子があまりも愛くるしくて、志鶴はふはっと笑ってしまった。 「……しづるさん」 「ん? ごめん、笑ったから怒った?」 「ううん……」  海はぼんやりと、志鶴の顔を見つめてきた。起きているのか寝ぼけているのかはよくわからない。志鶴が「どうしたの」と尋ねてみれば、海はぎゅっと志鶴にしがみついてきた。 「……志鶴さんが、笑った」 「? 俺、普通にいつも笑ってない?」 「……、初めてです、志鶴さんが笑うのは……」  どういうことだろう、と志鶴が首をかしげる。しかし、言われてみれば――心から、自然とこみあげてくるように笑ったのは……今が、初めてかもしれない。  海は再び顔をあげると、潤んだ瞳で志鶴を見つめてくる。そして、微笑みと共に涙を一滴零した。 「嬉しいです。大切な人が笑ってくれると……すごく、嬉しいです」 「海――……」  志鶴は胸がしめつけられるような心地に、苦笑いをした。そして、また吹き出すと、海を抱きしめて笑顔を浮かべる。 「じゃあ……海も、俺の傍で笑っていてよ」 「……、」 「……恋人として、俺と一緒にいてくれる?」  ぴく、と海が身じろぐ。海は志鶴を見上げ、徐々に顔を紅く染めていった。そして――へへっと零れ落ちるような笑顔を浮かべると、 「――はい!」 と嬉しそうに答えてくれた。  朝の光が降り注ぎ、二人の肌を照らす。ようやく始まった恋を、祝福するように。

書籍の購入

ともだちにシェアしよう!