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電子音で、志鶴は目を覚ました。いつの間にか、眠っていたようだ。昨晩のセックスが激しすぎて、最後の方の記憶が曖昧になっている。定期アラームがなかったら、危うく寝坊をするところだったかもしれない。
「……」
海はぐっすりと眠っていた。いつもよりもずっと激しく抱いたのだ、体への負担は相当なものだっただろう。今更のように志鶴は申し訳なく思って、海をそっと抱き寄せると頬にちゅっと優しくキスをする。
「ん……」
「あっ……悪い、起こしちゃった?」
「しづる、さん……?」
海は寝ぼけまなこで志鶴に微笑みかけてきた。志鶴は苦笑して、きゅ、と海の鼻をつまんでみる。そうすれば海は「んーっ」と悶えてきたので、その様子があまりも愛くるしくて、志鶴はふはっと笑ってしまった。
「……しづるさん」
「ん? ごめん、笑ったから怒った?」
「ううん……」
海はぼんやりと、志鶴の顔を見つめてきた。起きているのか寝ぼけているのかはよくわからない。志鶴が「どうしたの」と尋ねてみれば、海はぎゅっと志鶴にしがみついてきた。
「……志鶴さんが、笑った」
「? 俺、普通にいつも笑ってない?」
「……、初めてです、志鶴さんが笑うのは……」
どういうことだろう、と志鶴が首をかしげる。しかし、言われてみれば――心から、自然とこみあげてくるように笑ったのは……今が、初めてかもしれない。
海は再び顔をあげると、潤んだ瞳で志鶴を見つめてくる。そして、微笑みと共に涙を一滴零した。
「嬉しいです。大切な人が笑ってくれると……すごく、嬉しいです」
「海――……」
志鶴は胸がしめつけられるような心地に、苦笑いをした。そして、また吹き出すと、海を抱きしめて笑顔を浮かべる。
「じゃあ……海も、俺の傍で笑っていてよ」
「……、」
「……恋人として、俺と一緒にいてくれる?」
ぴく、と海が身じろぐ。海は志鶴を見上げ、徐々に顔を紅く染めていった。そして――へへっと零れ落ちるような笑顔を浮かべると、
「――はい!」
と嬉しそうに答えてくれた。
朝の光が降り注ぎ、二人の肌を照らす。ようやく始まった恋を、祝福するように。
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