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第2話
明希の部屋は無駄なものが何もないような、シンプルな部屋だ。
中央に少し大きめの折り畳みテーブルが置いてあり、勉強机自体はない。
おそらくこのテーブルで勉強しているのだろう。
「飲み物を取ってくるから、そのプリントに目を通しておけ」
「はーい」
明希が部屋を出ていくのを確認すると、夏樹は早速部屋を見て回った。
本棚には参考書が綺麗に並んでいて、几帳面さを伺える。遊ぶようなものは見当たらない。
パソコンがベッドの枕元に置いてあるくらいだ。
ベッドの下には何もない。
もしかしたらエロ本を隠してあるかと思ってみたが、そんなものはないみたいだ。
「……」
どうしても視線はベッドに注がれる。
まだ足音が聞こえないのを確認し、夏樹はベッドに腰かけた。いつも明希が寝ているベッド、ただそれだけなのにドキドキする。
少しだけ迷ったが、夏樹は枕に突っ伏して匂いを嗅いだ。
明希の匂いがする。薄いけど、確かに明希のいい匂いだ。
なんだかずっとこうしていたい気持ちになる。
「……好き」
こんなにも明希が好きだ。
どうして自分は男なんだろう。いや、男だからこそこうしてここにいるのだろうが、それでもその先に進むことができないことを悔やんでしまう。
悔いたところで生まれ持ったそれはどうにもならないのだけれど。
「あー……、明希ぃ……」
「なんだ?」
「ふおっ!?」
驚いてすぐに上体を起こした。
部屋のドアを開け、麦茶を載せた盆を持って呆れ顔をする明希がそこにいた。
なぜ気付かなかったのだろう、いつからそこにいたのだろう。
さっきの呟きは聞かれてしまったのだろうか。
飛び出てしまうのではないか、と思うくらいに心臓がドクンドクンと鳴っている。
「勉強する約束だ。寝るな」
「はい、すみません」
すぐにベッドから降りてテーブルに向かった。
どうやら聞かれてはいないらしいし、今の行動も単に寝たいだけと捉えられたようで一安心だ。
さあ、ここは気持ちを切り替えて真面目に勉強するとしよう。
夏樹はシャープペンシルを手にし、問題を解き始めた。
が、勢いがあったのは最初だけ。
すぐに手は止まってしまう。
毎回思うことなのだが、せめて授業だけでもきちんと聞くべきだな、と過去の己をなじる。見兼ねた夏樹が参考書を指さした。
「解き方は二通りあるが、公式を覚えられないお前なら、こっちの強引に解く方法が合っているだろう」
そう言って、明希は夏樹のすぐ隣に来て解き方を教えてくれる。
解法を教わりながら、ふわり、と明希の匂いが漂って、それだけでバクバクして、夏樹の心臓はそろそろ限界かもしれない。
その後、己の中の何かと必死に戦いながら勉強すること1時間半。
だいぶ問題も解けるようになった頃、明希は隣でシャープペンシルを握る明希をじっと見つめた。
「……で、こうなるから、……夏樹?」
「明希ぃー、オレ疲れたぁー」
そう言って、夏樹は明希に抱きついた。
このくらいのじゃれ合いなら冗談で済まされるだろうと思い、ここぞとばかりに明希にじゃれる。
「休憩!」
「……まあ、ここまで理解できれば赤点はないだろう。が、」
そう言うと、明希はコツン、と夏樹の額を軽く小突いた。
「こういうことは好きな女子にでもやれ」
「えー、彼女いない歴イコール年齢のオレにンなこと言うなよ明希ちゃん。あー、人肌恋しいよー」
なんて、冗談はここまでにしておこうかな。
そう思って明希から離れようとしたまさにその時だった。
「……今日だけだぞ」
え? と思わず明希の顔を見た。
今明希は何と言った? この行為を許してくれた? 今日だけは抱きついていいということ?
いや、今の会話の流れだと、女子の代わりになってくれる、ということか?
そういうことか? そういうことなのか?
これは確認が必要だ、と夏樹は思った。
「それはさ、どこまでやっていいの?」
「えっ」
「興味だよ、興味。オレのこの抑えきれない好奇心をどこまで試していいかを聞いてんの」
これにはさすがの明希も困ったようで、返答がなかった。
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