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第6話
その間に夏樹はズボンを吐いて身支度を整える。
「お茶、持ってくる」
明希は席を立つと足早に部屋を出ようとした時だった。ドアノブに手を掛けようとするとドアが勝手に開き、そこには女性が立っていた。明希に姉がいるなんて聞いたこともない。いや、明希が言わなかっただけかもしれないが。
「あら、お友達?珍しいね、家に連れてくるなんて」
突然の姉の登場に明希は固まってしまった様子だ。
「今日は仕事って……」
「明希が寂しいかなーと思って3倍速で片付けてきちゃった!」
歳が離れているのだろう。見た目、20代前半のように見える。姉は明希を押しのけ、あらあらー、とか言いながら夏樹をじっと見てきた。
「やだー、可愛い童顔くんじゃない!」
「どっ……」
人が気にしていることをドストレートに言われてしまった。ちなみに、童顔であることを気にしているのは明希も知っているので明希は容姿について触れてこない。
「ああ、お茶?持ってくるねー。うふふ、ごゆっくりー」
そう言うと、姉はドアを閉めて行ってしまった。持ってくるということは、もう一度部屋を訪れるということだ。変なことはしないようにしておこう。
「すまない、悪い人ではないんだ」
「キレイなお姉さんだな」
「……母だが」
……え?
あんな若い人が、母?姉ではなく、母?何の冗談だろう、と思ったけれど、明希がこんな無意味な嘘をつくはずもなく。
「うっそー!若ッ!!えええええー!」
「あらありがとう、お世辞でも嬉しいな。」
ノックの音が聞こえたと同時にドアが開いた。麦茶のボトルを持った、姉、ではなく明希の母が嬉しそうににこにこしながら立っていた。
「お名前は?」
「和谷夏樹、です。」
「今日泊まる?」
「母さん!」
突然の明希母の申し出に、夏樹は即答できなかった。明希とはまるで正反対の性格だ。
「ハンバーグだけど、いい?」
「母さん、話を勝手に進めないで」
何故だか明希母の中では夏樹のお泊りは決定事項らしい。こればかりは夏樹の独断では決められない。すみません、と携帯電話を手にし、母親に電話をかけた。勉強のためのお泊り会、ということで話をすると、相手が明希ということもあり、すんなりオーケーは出た。
「いいって言ってます」
「じゃあ決まり!できたら呼ぶから、それまでお勉強しててね」
じゃあねー、と言い、明希母は嵐のように去っていった。明希は隣で頭を抱えている。夏樹をなかなか部屋に招いてくれないのは母に会わせたくなかったからかもしれない。
「明希母、若ッ!」
「年齢はトップシークレットだそうだ」
「……おう」
とにもかくにも、まさかまさか、明希の部屋に来て、お泊りまでできるなんて、今日はなんて良い日なのだろう。明希が引っ越してしまうことは悲しいことだけれど、今はこの現状を存分に楽しむとしよう。
「問12からだ」
「はい」
勉強モードに入った明希はシャープペンシルを夏樹に渡す。純粋に楽しめるのはもう少し先になりそうだ。
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