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第8話

朝日が眩しくて目が覚めた。既に隣に明希はいなくて、ベッドには夏樹一人だった。上体を起こすと、「起きたか」という声が聞こえた。丁度明希が着替えている所だった。目のやり場に困ったので、眩しいはずの窓の外を眺め、良い天気だなー、とか適当なことを言って誤魔化した。 「今日は何時に帰る?」 「えー、特に予定はないから、適当かなぁ」 「なら昨日の続きができるな」 それは当然、テスト勉強のことを意味している。お泊りというイベントだからといって、ウフフなイベントがそうポンポンと起きるはずはなかった。 「……はい」 朝食を食べて身支度を整えた後、文字通り缶詰め状態となってテスト勉強に勤しむことになった。明希が教えてくれるので苦ではないが、もともと勉強は好きではないので時折集中力が途切れてしまう。1時間たった今、また集中力が途切れてしまい、問題を解く手を止め、じーっと明希の方を見た。 「ご褒美が欲しい」 「……は?」 「なんかご褒美があればオレ、頑張れると思うんだ。」 何を言っているんだ、と言いたげな呆れ顔で明希は夏樹を見る。だが、この提案は悪くはないと思うし、むしろグッドアイディアだと思う。得られるものがあれば、頑張れる気がする。 「何が望みだ」 「え、えっと、そうだな、……」 ここで変なことを言ったらドン引きされるに違いない。考えに考えて、夏樹はうん、と一人で頷いた。 「キスしてほしい」 明希とのキスはとても気持ち良かった。好きな人とのキスなのだから嬉しいのは当然かもしれないけれど、もう一度、あのキスを味わいたいのだ。どうかな、と夏樹は真剣な面持ちで明希の回答を待つ。 「全科目平均点以上取れたら考えよう」 「ま、じか……! って、全科目?!」 それがいかに難易度の高い課題か。得意分野である化学と生物はさておき、特に苦手な社会と現代文はいつも赤点スレスレだ。それを平均点まで底上げする必要がある。テスト開始の1週間で。与えられた期間は、たった1週間だ。 「やる。やればできる子だってことを明希に教えてやるよ」 「そうか、それは楽しみだ」 ふ、と笑みを漏らす明希は余裕の表情だから、きっと無理だと思っているのだろう。確かに今の調子では無理だろう、が、90点を100点にするよりは、0点を50点にする方が簡単だと聞いたことがある。不可能ではないはずだ。そうと決まれば、まずはこの数学をさっさと終わらせてしまおう。 「明希、この問題はこれで合ってる?」 「ああ、それは……」 急にやる気を出した夏樹に明希は驚きながらも夏樹の質問に的確に答えてくれる。もう一度明希とキスをするため、夏樹に残された道はただ一つ、とにかく死ぬ気で勉強することだ。

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