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第9話
試験期間をいつもより長く感じた。当然、テスト中は明希と放課後に遊ぶことはないので夏樹の明希不足は深刻だ。最後の試験を終了すると、夏樹は机に突っ伏した。ようやくこの長い闘いが終わったのだ。テスト用紙の枚数を確認する音を聞きながら、夏樹は明希の方を見た。試験中は出席番号順に座るため、夏樹の席は窓際の一番後ろだ。丁度クラス全体を見渡せる位置で、結構好きだったりする。明希は姿勢を崩すことなく、前を向いて座っている。他のクラスメイトは試験終了の解放感から雑談を始めているのに、真面目だなぁ、と思う。
「ではこれで、終了です。起立!」
終わった!! 明希は晴れ晴れとした気持ちで席を立ち、号令に合わせて礼をした。着席すると、明希がやってきた。ホームルームまで少し時間があるためだろう。
「お疲れ、夏樹。」
「終わったー!ありがとー、明希!でも、ごめん……」
試験は確かに終わったのだが、夏樹は少し俯いた。
「さっきの問10が解けなくて……。昨日の現文の最後の問題も時間足りなくて途中までしか書けてないし……。折角明希が教えてくれたのに、なんか、ごめん」
「謝る必要はない、それだけ考えて解答できたんだろう?上出来だ。」
確かに、今までの夏樹なら開始20分でギブアップしていただろう。こんなにも頭を使って問題を解いたことはなかったかもしれない。
「そうかな?」
「ああ、あとは結果を待つだけだが、その様子なら……」
言いかけて明希は口を閉じ、顔をそむけた。どうしたのだろうか、明希の行動はたまによくわからない。
「席につけー」
「じゃあ、また放課後」
教師が入ってくるか否や、明希は足早に席へ戻っていった。全科目平均点以上なら、明希とキスができる。平均点以上なんてとれただろうか。自信は半分くらいだ。でももしこれで目標を達成したら……
(……あれ、明希、もしかして、照れた?)
明希の後ろ姿を見る。さすがにここからでは表情を伺えないが、夏樹に表情の変化を見られたくなかったから顔をそむけた、きっとそうに違いない。
(何それ、可愛いかも)
明希が何を思ってキスを受け入れてくれるのかはわからないが、きっと嫌ではないはずだ。いや、これはあくまで夏樹の勝手な妄想の域でしかないのだが、本当に嫌な相手とはキスなんてしないと思う。ましてや、あんなエッチなことまで。だから、明希は例え、恋愛の対象ではないにしても、好意は抱いてくれているはずなのだ。そうに違いない。……あくまでも夏樹の妄想だが。
(早く結果返ってこないかな……)
いつもは有り難くない答案用紙の返却も、今回ばかりは待ち遠しい。全ての答案が返却されたら明希に結果を報告しよう、それが例え、条件をクリアしていなくても。
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