10 / 33

第10話

それから数日後、答案用紙がすべて返却された。最後の答案用紙を震える手で受け取って、急いで席に戻った。最後は現代文だ。明確な答えがないような気がしてどうにも苦手な現代文。試験中は時間が足らず、最後まで問題が解けなくて悔しい思いをした。目を閉じて大きく深呼吸してその点数を見る。70点、と赤いペンで点数が書かれていた。 「うっそ!!」 「はは、和谷ー、どしたー?」 席が近い友人が笑いながら寄ってきて、承諾なしに夏樹の答案を覗き込む。直後、友人も夏樹と同じような言葉を発した。いつも最下位争いをしているような仲なので、その点数は信じがたいものだったに違いない。何度も何度も解答欄と点数を確認し、間違いではないことを認識する。これで、すべての教科と科目で平均点を上回ったことになる。声を上げて喜びたいのをぐっと堪え、夏樹は小さくガッツポーズをとった。 「まじか、人生の運、全部使い切ったんじゃね?」 「実力だよ、じ、つ、りょ、く!」 勿論、1週間近い明希との勉強の成果だ。色々な雑念を追い払い、キスすることだけを目標に頑張った夏樹の努力の賜物だ。ホームルームを終えたと同時に夏樹はカバンを手にし、明希に駆け寄った。 「明希!聞いて!」 明希はまだのんびり帰り支度をしている最中だ。 「達成したよ、全科目平均点以上!!」 口元がにやけたままだがこの際そんなことどうでもいい。いち早く、この結果を明希に伝えたかったのだ。キスしたいのは勿論だけど、それよりは、お礼が言いたくて。 「オレ、こんな点数とったの初めてで。明希、ありがとう」 「お前はやればできる子だといつも言っているだろう」 明希はふっと笑みを零し、おめでとう、と言ってくれた。その笑みにきゅんときたし、その言葉が嬉しかったし、本当に幸せだった。 「オレがいなくなってもしっかりやれよ」 「……そう、ね」 明希はいなくなる。その事実は変わらない。どんなに抗っても子どもである自分たちにその力はない。急に勢いをなくした夏樹を見て、明希はすまないな、と言った。ぶんぶんと首を横にふる。明希が謝る必要なんてないのだ。これは仕方がないことなのだから。それに、大人になったらきっと会える。もし明希が会いに来てくれなくてもこちらから会いに行く。だからこれは永遠の別れなんかじゃない。 「うち、来るか?」 そう言って、明希はハンカチを差し出してきた。気付かぬうちに瞳が潤み、涙が数滴零れていたらしい。有り難くハンカチで涙をぬぐい、こくん、と頷いた。きっと元気づけようとしてくれているのだ。明希はとても優しいから。

ともだちにシェアしよう!