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第11話

教室を出てから明希の家に着くまで、ずっと二人は無言だった。夏樹は涙を堪えながら歩き、そんな様子をちらりと見ながら明希は歩く。無言ではあったけれど、心地はよかった。明希が心配してくれているのがよくわかったから泣くのを止めないと、と何度も思うのに、人間というのは不思議なもので、その逆の行動が出てしまう。今日は誰もいないみたいで家の中は暗く静まり返っていた。二階に上がってすぐの部屋が明希の部屋だ。中は相変わらず物が少なく、片付いている。ベッドの上のパソコンの位置も変わっていない。 「お茶でいいか?」 「うん、ありがと」 荷物を置き、明希は一旦部屋を出た。明希の部屋に来るのは今日で2回目だ。前回は明希母の強引な誘いによりお泊りになったのだけど、今日も明希母の登場を密かに期待している自分がいる。一緒に過ごす夜はとても楽しかったし、一緒にベッドで眠るのも嬉しかった。明希の温もりや匂いが間近で、なんだかとても幸せで。明希もあの日は、久々にぐっすり眠れた、と言っていた。大人になれば一緒に住むという選択肢も増えるのだろうか。明希のもとへ行き、明希と住み、生活する。叶えばどんなに幸せだろう。そのためには一体何をすればいいのだろう。考えても思い浮かばず、ベッドに腰かけて天井をぼんやりと眺めた。 「ベッドが好きだな」 明希が盆にお茶の入ったコップを載せて戻ってきた。折り畳みテーブルの上に置くと、明希は夏樹の横に腰かけた。 「何を考えていた?ぼーっとして」 「え?ああ、」 夏樹は苦笑してしまった。こんなこと言うと、バカか、と一蹴されそうだったから。 「大人になったら明希と一緒に住みたいなって思ってた」 「そうか」 言葉にすると照れ臭くなり、夏樹は明希から顔を背けた。そんな願望を口にして、明希に断られでもしたら立ち直れないのに。ちらり、と明希を見た。明希も同じく夏樹から顔を背け、扉の方をぼんやり眺めているようだった。 「それも、いいかもな」 「!」 まさか同意の言葉が出てくるなんて思ってもいなかったから、夏樹は驚いて明希を二度見した。明希は少しだけ笑みを零していた。冗談ではなさそうだけど、本気ともとりがたい、そんな様子で。だが、いいように解釈した方が前向きになれるような気がしたのでマイナスなことはあえて無視することにした。 「お前一人くらい養ってやるから安心しろ」 「自分の生活費くらい自分で稼ぐし!」 「オレがいないと赤点のお前がか?」 「テストと仕事は関係ないだろー!」 いや、決して無関係というわけではないだろうけれども。こんなやり取りをしていると、まるで将来、二人で住むことを約束しているような、そんな錯覚を起こしてしまう。が、今はそれでもいいと思った。どうせなら、幸せな思いをたくさん抱きたい。悲しい思いをするのは数週間後、明希がいなくなってからでいい。

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