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第14話

それ以上のことはその後起きず、空は暗くなってきていた。そろそろ明希の両親も帰ってくる頃だろうし、夏樹もそろそろ帰らなければならない。 「夜は寝れてんの?」 「相変わらずだ」 あの眠くなる動画なるものを見ながら寝れない夜を過ごす明希を思うとなんだか切なくなる。 「オレが泊まったときは寝てたじゃん」 「何故だろうな、お前が隣にいると眠れるのかもしれない」 そんなことを言われるとなんだか嬉しくなってしまう。このまま帰るのは勿体ない気がしてしまうくらいにずっと二人きりでいたい。 「そうだ、今度はうちに泊まれば?」 「お前の家?」 「そ!別にうちに泊まるのは初めてじゃないし、大丈夫だろ?」 明希母はあのような性格だからだろうか、明希が友人の家に外泊するのもあっさりオーケーしてくれる。なので、度々夏樹の家に外泊はしていた。最近はあまり泊まりにきてくれないけれど。もし明希が夏樹の家に泊まってくれれば一晩過ごせるし、夜も眠ってもらえるし、お互いウィンウィンだ。明希も同じ考えなのだろう、少し考えはしたものの、連絡だけ入れておく、とメールを打ってすぐに支度を始めた。狙っていたつもりはないが、偶然にも今日は金曜日。明日は学校が休みの日であるし、試験も終わったのでのんびりできる。明希が1泊分の荷物をカバンに詰めるのを確認すると、夏樹はにこ、と笑みを零した。そんな夏樹を見て、明希も微笑む。 「じゃ、行こうぜ!」 「お前、親に連絡くらい入れておけ。」 「ああ、そっか。忘れてた。」 携帯電話を取り出して、夏樹は慌てて母に連絡を取った。勿論、快諾してくれた。 「ご飯もう少しかかるからゆっくりおいでってさ」 「そうか、なんだか申し訳ないな」 「みんな明希のこと大好きだから大丈夫だよ」 それは勿論、夏樹も含めて、だ。だがしかし、家に着いてしまうと手をつなぐこともなかなかできなくなってしまう。当然、キスのおねだりだって。泊まりに来てくれるのは嬉しいけれど、ちょっとだけ我儘を言いたい気分だ。 「なあ、明希」 夏樹は明希に近付いて、そっと恋人つなぎのように手を絡めた。こういうことをするのは本当は恋人同士になってからの方がいいに決まっている。そんなことは分かっている。本来ならゆっくりと時間をかけて口説いて、確実にオーケーをもらいにいきたいところだ。が、そんな時間は夏樹には残されていない。さっき見つけた明希の部屋の壁掛けカレンダーを確認すると、学期終了日翌日に丸がついていた。多分、ここが引っ越し日。これから始まる長い夏休みにはもう、明希は手の届くところにはいないのだ。 「もうちょっとだけ、オレの我儘聞いてよ」 下から見上げるように明希を見つめ、へへ、と笑う。意図を理解したのか、明希は小さくため息をついた。呆れられてしまっただろうか。 「今更拒否はしない」 で? と明希は夏樹をおでこを小突いた。 「今度は何をさせる気だ?夏樹」 明希は本当に優しい。だから、今はその優しさに付け入ることにする。ふふふ、と夏樹は意味深な笑みを漏らした。

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