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第15話

明希は優しいな、と改めて思う。夏樹が何を考えていようが、それを許容すると言ってくれているようなものだからだ。 「明希がいるうちにオレも色々経験しときたいなって」 一体どこまでの行為ならその名目で許してくれるのだろう。なんだかギリギリのラインまで迫りたくなってきてしまった。 「夏樹、お前、」 明希ははあ、と溜息をついた。前髪をわしゃ、と掻き上げ夏樹を見下ろす。 「誘っているのか?」 「えっ」 その言葉とほぼ同時だった。何の前触れもなく、夏樹は明希に押し倒されていた。本当に、よくわからなかった。背中が柔らかかったのでベッドの上に押し倒されたんだな、と後で気付くほどに驚いていた。明希からアクションがあるなんて、初めてではないだろうか。 「言っただろう、オレも男だ、と」 確かにそんなことを言っていた。あの時は当然のことを言われ、そりゃそうだ、と思っただけで特に気にも留めていなかった。男だから、男同士でこのような行為をするのは抵抗があるのではないか、と気兼ねしたくらいだろうか。 「……明希?」 いつもの余裕ぶった明希ではないように見えた。思わず息をのんでしまうような、呼吸をするのを忘れてしまいそうなくらいの目力に、夏樹は心臓を鷲掴みされたような気がした。もともとイケメンだし顔は好みだが、それがこんなに間近にいて、真剣に、夏樹だけを見下ろしていて。どうしたのか、と尋ねたくても言葉が出てこない。ドキドキしてしまう。瞳に吸い寄せられて、視線が逸らせない。格好いいのは知っているが、ここまでドキドキするのは初めてかもしれない。それに、なんだか雰囲気がいつもと違う。 「……お互い様だよな」 「な、何が、でしょうか」 緊張のあまりつい丁寧語になってしまった。明希は夏樹のブレザーのボタンを指でなぞり、一つ、片手でいとも簡単に外してしまった。 「お前はやってみたいことをオレに求めた。オレも同様に、お前に求めて問題ない。だろう?」 「……おう」 夏樹が固まっている間にも明希はてきぱきとカッターシャツのボタンまで外していく。 「知っているか、明希。男にも性感帯はあるらしい」 性感帯、というと、気持ちいいと感じるポイントのことだろう。女にそれがあるのは知っているが、男にもあるなんて聞いたことがない。そもそも、男は女と違ってそういうことは感じにくいのではないだろうか。へえ? と答えると、こくり、と明希は頷いた。 「探してみたいと思っていた。実験台になってくれるだろう?」 きょとん、とした。少し間を空けて、当然、この部屋には夏樹と明希の二人しかいなくて、実験台になるのは当然夏樹の方で。 「……オレ?!」 「他に誰がいる」 「いいけど、男だよ? あるかなぁ、そんなの」 「だから実験するんだ」 きっと明希母からの入れ知恵なのだろう。きっとそれも、中途半端な知識。故に明希の好奇心に火をつけてしまうようだ。勿論、明希と触れ合うことができるのならば願ったりかなったりなので断る理由は夏樹には何もない。 「やってみたら?」 精一杯強がって、ドキドキする気持ちを抑え、平常心をなんとか保った。

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