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第17話
刹那、携帯電話の着信音が鳴った。驚いて、夏樹は急いで携帯電話を探す。ディスプレイには「母」と表示されていた。
「はい?」
内容は、晩御飯がもうすぐできるから帰っておいで、というものだった。返事をして通話を終えて、ちらり、と明希を見る。明希は少し申し訳なさそうな渋い表情を浮かべている。
「すまないな、お前の気持ちを無視して好き勝手にしてしまった」
「え?! いや、別に……」
嫌ではなかった。むしろ、見たことのない明希の姿を垣間見れて嬉しかった。普段あまりにも消極的で口数が少ないからか、明希から攻めてくるのはとても新鮮だったのだ。何より、好きな人からの行為なので、それが練習台だとしても、その相手が他ではなく夏樹でよかった、と思うのだ。他の誰かにこんなことをされたら嫉妬してしまうだろう。
「明希も、こういうことに興味あるんだなーって、意外で驚いた」
「オレも男だと何度も言っているだろう」
そうだな、と夏樹は笑みを零した。興がそがれてしまったのは勿体なかったが、あれ以上の明希からの攻めは夏樹の心臓が持たなかったのでタイミングとしてはよかったのかもしれない。衣類を整え、夏樹はベッドから降りた。あんまりここでゆっくりもしていられないだろう。明希も考えは同じようで、同じようにベッドからおり、カバンを肩から下げた。
「んじゃ、行こうか」
「そうだな、世話になる」
「はは! 改まっちゃってー。オレたちの仲じゃん」
「お前じゃない。お前の母に、だ」
バカみたいなやり取りに、二人で笑い合った。エッチなことをする時間も貴重だけど、こうして笑い合い時間も同等に貴重だ。
「あ、そうだ。明希、」
夏樹は明希を覗き込み、隙あり、とばかりにキスをした。まさかこのタイミングでされるなんて思ってもいなかったようで、明希は目を丸くしている。
「さっきの続き。中途半端だったからな」
にこ、と笑うと明希はふい、と顔を背けてしまった。夏樹からのキスが気に入らなかったのだろうか。何か、気分を害してしまったのだろうか。
「明希?」
「……お前、覚えてろよ」
「えっ!?」
頬を赤くする明希にも驚いたけど、不穏なことを言う明希にもドキッとしてしまった。何をされても喜んでしまうなんて、明希大好き病がそろそろ末期だ。
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