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第18話
何故こんなことになったのだろう。成り行きと言えばそうなんだけど。
二人は夏樹の兄である春馬(はるま)の部屋で、春馬と共にアダルトDVD鑑賞会を行っていた。入手経路は友人、とのことだ。夏樹が風呂上がりに部屋に戻ろうとするところ、面白いDVDを手に入れたから、と呼び止められたのだ。ならば明希も、と誘い、二人で来てみればまさかのアダルトDVD。色々判断を誤った気がする。
「……おお」
さっきから、感嘆詞しか出てこない。男女のセックスなんて初めて見たし、行為自体も初めて知った。こういう愛情表現があるんだな、と勉強にはなるが、なぜ今日に限ってだ、兄! と心の中で突っ込まずにはいられない。どんな顔をしているのか気にはなるが、今、明希の横顔をチラ見する勇気はない。ちなみに並びは奥の方から春馬、夏樹、明希の順だ。テレビの画面からは色のついた艶めかしい声が駄々洩れている。女性がいい声で喘ぐたびに下半身が痛くなる。明希にこんなことされたい、なんて言ったらドン引きされるかもしれない。攻めるより攻められる方がいいらしいことにもこのDVDを見ながら気付いてしまった。男としてそれはどうだ、とも思うのだけれど相手が男なのだから有りじゃないかな、と勝手に思っている。
「なかなかいいだろ」
春馬である。何がいいのかは分からないが、とりあえず興奮してしまったので否定はできない。が、肯定するのもなんだか悔しい。
「中学二年生にこんなもん見せるなよ。てか、兄さんだって中学生じゃん! だめだろ!」
「ふっ。こういう楽しみがないと受験生やってらんねーよ。な、明希ちゃん」
恐る恐る明希を見るが、明希はいつものクールな表情のままだった。
「楽しみがないと、という点は理解します」
「だろー!!! 流石明希ちゃん、話が分かる!」
「いや、都合よく受け取りすぎだろ!」
決して明希はアダルトDVDを肯定したわけではないが、春馬は都合よく解釈してしまっている。今に始まったことではないから今更話したところで無駄なのでやめておくが、突っ込むだけは突っ込んでおいた。
「あー……たってきた」
「…………」
春馬の要らぬ告白になんと返答すればよいのかわからず、夏樹はあえて反応せずに画面をただただ見る。
「夏樹、オレ、たってきた」
「だから何」
そんなことを言われても他人の下の処理なんてどうすることもできない。
「トイレ行っておいでよ」
「なー、明希ちゃんもそろそろたってきたんじゃない?」
「無視?!」
春馬に問われるが、明希は「いえ」と否定する。本当かどうかは分からない。
「うっそー、明希ちゃんも男でしょ、たってるでしょ、嘘言ったってオレにはわかるんだよ」
こんな男の誘いに乗ってこの部屋でアダルトDVD鑑賞をする羽目になってしまったことを全力で明希に謝りたい。直ちにだ。
「夏樹、お前受けな。決定」
「は?」
いきなり何を言い出すんだこの男は、と春馬を見た瞬間、突然押し倒されてしまった。大き目のクッションを使っていたので背中は痛くなかったけれど、突然のことに驚いた。
「真似っこしようぜー」
「バカ言ってんな、どけバカ兄貴」
冗談じゃない。なぜ明希以外の男と真似事でもそんなことをしなければならないのか。どうせされるなら相手は明希がいい。いや、そういう問題じゃない。
「明希ちゃんもやろうぜー。真似事だよ、な」
な、じゃねえだろ! と突っ込みたいが、動揺しすぎて上手く言葉が出てこない。
「うわっ! ばか、パンツおろすな!」
明希の前で丸出しにはできないと思い、春馬の手から必死にズボンとパンツを死守する。ああ、本当にこんな兄の誘いに乗るんじゃなかった、と今、心から後悔している。
「春馬さん」
明希は夏樹のパンツをおろそうとする春馬の手を退けた。助かった。本当に、やばかった。ちょっと涙目にすらなっている。
「夏樹はオレのなんで、止めてもらえます?」
「ふおっ?!」
春馬の変な声が聞こえたが、それよりも、夏樹は硬直してしまった。明希は今何と言った?聞き間違い?空耳?
「明希ちゃん、もう一回言ってくれる?聞き逃しちゃった」
ナイス兄貴、と夏樹は心の中で親指を立てる。上体を起こし、ドキドキしながら明希を見る。だから、と明希はため息をつき、夏樹をそっと抱き寄せた。
「こいつはもう、オレのものなんです」
体から蒸気が出ているんじゃないか、と思うほどに全身が熱くなった。もしかしたらにやけているかもしれない、感情のコントロールが上手くいかない。それほどに明希の言葉が嬉しかった。
「まじでー?熱いねぇ、応援するよ!」
「どうも」
春馬はにやにや笑いながら、明希の背中をばしばし叩く。明希の表情が緩んでいるように見えたけれど、すぐにまた、いつものクールな表情に戻ってしまった。
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