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第19話

「夏樹はオレのなんで、止めてもらえます?」 その言葉がさっきから脳内で無限ループしている。明希はどういう意図で言ったのだろう。傍から聞くと、まるでそう、恋人同士であると捉えられるような言い方だった。キスやなんやらの練習相手、という関わりという認識であったが故、動揺を隠せない。その先を期待していいのだろうか。それとも、あの場から夏樹を助けるためにとっさに出た嘘だったのだろうか。悶々としながら部屋に戻り、それでも気になりすぎて、扉の前から動けずにいた。 「夏樹、寝ないのか?」 ベッドに入ろうとしている明希に声を掛けられた。明希は何事もなかったかのようにいつも通りの表情で寝る準備をしている。動揺しているのは夏樹だけのようで、それはそれでなんだか悔しい。 「お前が……兄さんが誤解するようなこと言うから」 「誤解? 何か間違ったことを言ったか?」 「…………お、オレの、って、言った」 小声でごにょごにょと言ったのできちんと明希に聞こえたかどうかは自信はない。が、それは耳に入ったようで、ああ、と明希は言い、頷いた。 「そうだろう?付き合っているんだから」 「そ、そか。そうだよな、付き合ってるんだから……え?」 聞き間違いか? 今の明希の言葉を誰か再生してくれないだろうか。聞き間違いだろうか。明希は今、付き合ってると言ったような気がした。本当にそう言ったのだろうか。半信半疑で、夏樹は目を点にして明希を見る。 「違うのか? オレは付き合っている前提でお前に許可を出していたんだが」 確かに、恋人同士であるならばキスしたり、抱きついたり、少しばかりエッチなことをしたっておかしくない。愛を確かめ合い、育む行為なのだから、むしろ自然。だがしかし、夏樹は告白した覚えはないし、明希にも告白された記憶はない。一生懸命過去をさかのぼるがやはりそのようなやり取りは記憶にない。 「そうか、あのプロポーズは単なる冗談だったのか」 「冗談なんかじゃない。オレは本気でそう願ってる!」 「オレはいつ、その願いを無下にした?」 否定の言葉は確かに何もなかった。未来の話をしても、すべて肯定してくれた。決してバカにしたり笑ったりはしなかった。それはつまり、夏樹のことを想ってくれていたから? 「オレもその未来を願っている。本気だ」 そう言うと、明希はこちらへ手を差し伸べた。惹きつけられるように明希の方へ足を運ぶ。手を取ると、ぐい、と引っ張られ、明希に覆いかぶさるような態勢になった。目の前に明希がいる。言葉の代わりに目尻に涙が溢れた。 「早く言えよ!」 「伝わっていると思っていた」 「お前はいつも言葉が足りないんだよー!!!」 まさか、あの日からずっと両思いだったなんて。嬉しすぎて、なんと言っていいかよくわからないくらい頭の中が真っ白で。涙だけがぽろぽろと零れ出て、泣くまいと思えば思うほど止まらない。 「すまない、なら、改めて言おう」 そう言うと、明希は夏樹をぎゅう、と抱きしめた。 「好きだ」 夏樹も、こくんと頷き抱きしめ返す。明希の体温が伝わってきて、温かい。 「好き、明希」 高鳴る鼓動が明希に聞こえませんように、と夏樹は祈りながら、その温もりをいつまでも感じていたいと願った。

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