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第27話

行為を終えた頃には外はすっかり暗くなっていた。 シャワーを借りて体を綺麗にし、衣類を整える。 部屋には夏樹と音流だけの二人だけになっていた。 「色っぽいなー、なっちゃん」 「嬉しくない」 ブレザーを羽織ると、なあ、と音流に声を掛けられた。 「いい加減、オレのコレにならない?」 音流は右手小指を上げて見せて、にや、と笑った。 「死んでも御免だな」 「ちぇー、大事にするのにー」 「信じられない」 こうして脅して夏樹を抱いて、しかも、友人まで呼んで複数プレイを強要する。 そんな人間が夏樹を大事にしてくれるなんて信じ難いことだ。 「なっちゃんさ、やっぱ好きな人いるんじゃないの?」 「……」 以前聞かれたとき、そんな人いない、と否定したのだが、薄々勘付かれているような気がしてならない。 そんな雰囲気は出していないつもりなのだけれど。 「もし想い人がいてさ? そいつがなっちゃんのこういう一面知ったらなんて思うだろうね?」 「……幻滅だろうな」 ぐさり、と自分の言葉が自身に突き刺さる。 明希が今の夏樹を知ったら、きっと軽蔑するだろう。 好きでもない人間に簡単に足を開くような阿婆擦れ人間、好きと思い続ける方が不可能だ。 が、もうそれも、いいのだ。 明希とはもう、二度と会うこともないのだろうから、ここで夏樹が何をしようが明希に知られることはない。 嫌われることもない。これ以上、好かれることも当然ないけれど。 「オレはそんななっちゃんもひっくるめて好きだけどなー」 ね、と音流は夏樹を後ろから優しく抱きしめた。 音流はいつも情事の後、夏樹を口説いてくる。 本気か否かなんてわからないが、夏樹にその気がない以上、返事は決まっている。 「ねー、今日こそキスさせてよ」 「キスだけはだめ」 「ちぇ。そういうとこだけピュアなんだからさー」 じゃあ、ここね、と言って音流は夏樹の頬にキスをした。 触れるだけの優しいキスだ。 こんなことをされると音流の本音が本格的に分からなくなる。 本当に夏樹のことが好きなのかもしれないし、だとしたら、真面目に断らないといけない。 だけど、そうしたところで冗談でした、と言われるのも癪なので、結局同じような対応になってしまう。 「もう帰らないと。親が心配する」 「そうだね。じゃあ、また明日ね」 「え?」 その言葉を聞いて、夏樹は思わず振り返った。 不良っぽいところがある音流はよく無断欠席を繰り返している。 故に、明日学校へ行く発言は夏樹にとって驚きのものだった。 「出席日数ってのがあるでしょーが。中退はできないからさー」 「気にするんだ、そういうの。意外。」 ふふ、と音流は嬉しそうに笑う。 「オレのこと気にかけてくれるんだ、嬉しいなー」 「……帰る」 夏樹はカバンを拾うと足早に玄関へ向かった。 これ以上一緒にいるとペースを持って行かれそうだ。 もうワンラウンド、となる前に早々に撤退したい。 「寝坊すんなよ」 「はーい。お休み、なっちゃん」 玄関ドアを閉めると、外は暗くなっていた。 外灯を頼りに帰路へと着く。 一人になると急に寂しくなってしまう。 ちらり、とスマホを見るが、着信はなにもない。 何を期待したのだろう。期待することなんて、とうの昔に止めたではないか。 (晩御飯、何かな……) 無理矢理別のことを考え、思考を誤魔化した。 そうしないと、寂しさでどうにかなりそうだった。

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