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第29話

授業にも集中できないまま、あっという間に昼休みになってしまった。 弁当を広げていると明希が音流の席に座った。 音流はいつも昼休みは姿を消すので席を外している。 「夏樹、久しぶりだな」 「……うん」 箸を取り出し、蓋をあけながらも夏樹は下を向いたまま頷く。 「この学校でよかった。違っていたらどうしようと、今日まで緊張で眠れなかった」 どうやら学校選びは博打だったようだ。 音信不通だったのだから情報もないだろうから、それは必然だろう。 「すまなかった、連絡、できなくて」 「……」 明希はコンビニ袋からおにぎりを取り出していた。弁当ではないらしい。 「怒っていい」 「……別に、怒ってない」 「じゃあ、何故オレの顔を見ない?」 箸が止まってしまった。確かに、二人で会話しているのに顔を見ないのは相手に対して失礼だ。 恐る恐る顔を上げ、明希の顔を確認した。 明希はいつも通りの無表情な顔で夏樹をじっと見てきていた。 何も変わらない、あの時の明希だ。 明希が、本当に目の前にいる。 「……なんで、」 無意識にぽろり、と涙が零れた。 これ以上、我慢することなどできなかった。 溢れだした涙は止むことを知らず、次から次へと溢れ出てくる。 「なんで戻ってきたんだよ……」 もう戻ってこないと思っていた。 ずっと放っておかれて、もう愛想を尽かされたのだと思っていた。 「なんで、今更、」 そう、今更、だ。夏樹はこんなにも汚れてしまった。 明希の知っている夏樹なんて、もういないのに。 こんな夏樹を好きだなんて言ってくれる人間なんて、どこにもいないのに。 いないはずなのに。 「約束したから」 明希は、静かにそう言って、微笑んだ。 「絶対戻ってくると、約束した」 「あ、き……」 これ以上、何も言えなかった。 何を言えばいいのか分からなかった。 戻ってきてくれて嬉しい気持ちと、戻ってきてほしくなかった気持ちとが対峙している。 「弁当、食べたらどうだ?」 「……そうする」 沈黙のまま、夏樹は弁当を食べ進めた。 なんだか全体的に味がしょっぱいのは涙が止まらないせいだろう。 明希はおにぎりを二つだけ食べ、お茶を飲んでいる。 食べ終わって弁当箱を片付けると、明希は立ち上がった。 「夏樹、色々案内してほしい」 「そうだな。できる範囲で回ろうか」 「その前に、」 明希は青いハンカチを夏樹に差し出した。 「涙拭け」 「う……ごめん」 素直にハンカチを受け取って涙を拭った。 我ながら恥ずかしい姿を明希に晒してしまった。 「ハンカチ、持ってていい。もう一枚持っている」 「そう?じゃあ、遠慮なく」 明希から借りたハンカチをポケットに入れると、夏樹も立ち上がった。

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