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第31話

問題は放課後に起きた。 夏樹と明希の関係を知らない音流は、当然いつものように夏樹に声をかけてきた。 そしてそれを、夏樹は断れないでいた。 「なっちゃん、今日ノリ悪いね」 「……えっと、」 ここで断ってバラされるのも困るので、明希には誤魔化すしかないだろう。 「明希、ごめん、今日こいつと先約があるから先帰っててくれる?」 「ああ、転校生くんも来る?」 「!?」 音流は今、何を言った? 何故明希を誘っている? 夏樹は驚いて音流を見た。 悪びれた様子はなくて、本気で明希を誘っているようだ。 「来る?」 明希は首を傾げる。どくん、どくん、と鼓動が早くなる。それ以上聞かないでほしい。深く立ち入らないでほしい。断って、早く帰ってしまってほしい。 「いいのか?」 深く聞かず、明希はただそれだけを音流に聞く。 音流はにっこりと笑い、な、と夏樹に同意を求めてきた。 勿論全力で拒否したいのだけれど、拒否権など夏樹にはない。 「……」 だから、ただただ沈黙するしかない。 無言で音流を睨んでみるが、意味はなかった。 「いいに決まってるじゃん。夏樹も、何も言わないってことはオッケーってことだし、よし、行こう!」 いつも気乗りはしていないが、今日は本当に勘弁してほしかった。 明希は何故、何をするのか聞かなかったのか。 否、聞かれても音流なら素直に答えそうでそれはそれで困るのだけれど、だけど、実際に来られる方がダメージは大きい。 まさか明希の前で行為を行わなければならないのだろうか。 そこに明希がいるのに? 夏樹と音流が前を進み、その後ろから明希が何も言わず、聞かず、ついてくる。 おい、と夏樹は明希に聞こえないように小声で音流に声をかけた。 「本当にやるのか?」 「え?なんでそんなこと聞くの?」 音流は夏樹と明希の関係を知らない。 だからそんなことが言えるのだ。 何故恋人に不特定多数の人間に掘られる姿を晒さなければならないのか。 それが分かった上で、こうして音流の家に向かうのが本当に嫌だった。 今すぐにでも逃げ出したい。 だけど、そうすれば音流がどんな行動をとるかわからない。 それは避けなければならない。 「……嫌だなって、思ったから」 「そうなの?へえ」 音流はにやり、と不敵な笑みを浮かべる。 「嫌だと思うなっちゃんを蹂躙するの、最高かも」 「趣味悪すぎだろ……」 嫌だ嫌だと思いながらもとうとう音流のアパートに着いてしまった。 鍵を開けていると、見たことのある男子生徒が二人やってきた。 着ている制服は同じだから、おそらく違うクラスの人間だ。 今日は三人か、とぼんやり考えていると、音流に背中を押された。 早くは入れ、と言わんばかりだった。 「あれ、誰、それ」 男子生徒は明希を見て首を傾げる。 音流は「ああ、」と言いながら明希の肩をぽん、と叩いた。 「うちの転校生。なっちゃんと仲良さそうだったから誘ったんだ」 「へー、よろしくー」 男子生徒たちはにやにや笑っていて不愉快だ。 音流たちを置いて、夏樹はとっとと部屋へ入った。

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