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アルファ編2
あいつは思いのほか、俺の隣に置いても不都合ない男だった。
そればかりか妙な居心地の良ささえ感じる。
控えめな態度ながらも気が効くし、俺がなにも言わなくても欲していることを察知してくれた。あいつの前で俺はなにひとつ要求したことはない。言い出す前に、あいつが全てやってくれるからだ。
セックスだって、俺の要求したことはどんなアブノーマルなプレイでも、全て受け入れる。
羞恥に頬を染め、目に涙を浮かべながら喘ぐ姿は加虐心をいたくそそって、俺の心を満足させた。
万が一にも番になるわけにはいかないからと、あいつのヒートのときだけは接触を避けた。オメガのヒートは苦しいものだと聞くが、番になる気がないのだから仕方がない。
せめてもと、効きがよく副作用の少ない抑制剤を渡してやると、あいつは笑顔で受け取った。
はにかむような、控えめな笑顔。
そんな顔もかわいいなと思い、抑制剤を渡した自分を褒めてやりたい気分になったものだ。
あいつとの付き合いが長くなるにつれて、ほかのアルファの目に触れさせたくないという気持ちが高まっていった。
俺のためにこれだけ尽くしてくれる相手は、そうそういないだろう。
それを、ほかのアルファに奪われたら?
――そんなことは許さない。
いても立ってもいられず、半ば強引に同棲に持ち込んだ。そしてマンションから極力出ないように命じた。
買い物は全てネット通販を利用。
さすがにヒートのときだけは実家に帰らせたが、それ以外は俺の言いつけをよく守り、あいつはマンションから一歩も出なかった。
当然だが、これは監禁ではない。
あいつにはマンションのカードキーを渡していて、いつでも出入りできる状況にしているのだ。
だがあいつは俺の言いつけを守って、自らマンションに籠もっている。
本当にいい拾い物ものだったと、俺は歓喜した。
そんな生活はもう三年ほど続いていた。
俺はあと数ヶ月で三十になる。
両親との約束の日は近い。
なのに未だ運命の番を見つけられずにいた。
「マッチングパーティーに行ってみたらどうだ」
「まだ数ヶ月は猶予期間があるはずですが」
「下見も兼ねて、今のうちから参加しておくのも手だ」
両親はそう言ったが、俺は気が進まなかった。
このころにはあいつのことを愛し始めていたからだ。
あいつは俺が探し求めている運命の番じゃない。
だけどそんなこと、もうどうでもよかった。
あいつだけが欲しい。
あいつ以外は要らない。
だけど両親は、あいつを番にすることを反対している。
それに最近になってあいつ自身が、俺の番になる気がないようなことを言い始めたのだ。
「早く運命の番が見つかるといいですね」
「あなたの番になる人は、きっと幸せですね」
そんな言葉を聞くたびに、苛立ちが募っていく。
「お前は俺の番になりたくないの?」
「僕はあなたの運命じゃありませんから……」
あいつは寂しそうに微笑んで、俺を拒絶した。
今まで蔑ろにしてきたツケが回ったのだろうか。
――どうしたらいい?
焦る頭で打開策を考えた。
あいつだって本心から拒絶しているわけではないだろう。それが証拠に、あいつはマンションを出て行かないではないか。それに以前と変わらず、かいがいしく俺に尽くしてくれている。
大好き。
俺を見る瞳の奥が、今でも雄弁に語っているのだ。
俺がずっと、運命運命と言い続けたせいで、きっと拗ねているに違いない。
「運命よりもお前がいい」と一言告げれば、素直なあいつに戻るだろう。
そして次のヒートが来たら|項《うなじ》を噛もう。
両親は反対しているが、一度番になった者を簡単に引き剥がせるわけがない。
ただでさえ、アルファによる一方的な番解消が社会問題になっているのだ。大会社の社長である父は、世間の目を気にして反対しなくなるはず。父に言いなりの母も、これで黙るだろう。
そうと決まれば……。
俺はある計画を実行に移すことにした。
**********
「オメガとのマッチングパーティーに出なくちゃいけなくなったんだ。……お前も来るかい?」
あいつにそう告げた。
マッチングパーティーには一応親の手前、参加することにした。
だが目的は、あいつ以外のオメガと出会うことではない。
あいつの目の前で、ほかのオメガに見向きもしないところをアピールした上で「お前が一番いい」と伝えるためだ。
周囲にも俺たちの仲の良さをアピールして、あいつが俺の番だと認識させる。
そうやって脇を固めたうえで、あいつを番にしてしまえば、両親だって頭ごなしに反対はできなくなるだろう。
それはとても妙案に思われた。
絶対に上手くいく自信があった。
これが俺たちの運命の分かれ道になるなんて、このときの俺は考えもしなかったのだった。
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