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第17話

この国の制度を変える…?どの制度かさえわからないから、アルは説明を求めて首をかしげた。 「今の社会はΩを劣等種とみなしているが、その理由の大部分はヒート中に行動が制限されることだ。 現在の抑制剤で抑えられるのはフェロモンの放出だけだということは知っているか?」 「はい。」 デネボラの組織内のΩはヒート中必ず抑制剤を飲んでいる。しかしそれは放たれる匂いを抑えるためのものであり、Ω自身としては効果を感じられるものではない。 周りを見ればわかることだ。 「だから、発情自体を抑制する抑制剤の開発を行った。今回の学会で、俺たちはそれについて発表する。」 「…?」 アルはすでに傾げている首をさらに傾け、ただでさえ大きな目をより大きく見開いた。 彼の言っている意味がわからない。発情自体を抑制…? 「もしも抑制剤でヒート中の繁殖欲を抑えられれば、その抑制剤が効いている間は何の問題もなく働くことができる。」 「そんなことができますか?」 そんな、夢のようなことが。 「ああ、もう、効果も実証したんだ。 …ただ、国があまりいい顔をしなくてな。」 「国が?」 どうして国がいい顔をしないのか、アルの頭では思いつくことができない。 だって不思議だ。ヒートが厄介だから、自分たちは劣等種とみなされてきたのではないか。 「この国は、もう、Ωを差別することが均衡を保つ要素の一部になっているんだ。 Ωを劣等種として差別することで、βはαに従いながらも自分たちの立場に満足できる。Ωよりは恵まれていると思えるからだ。 そして国の上層部の大部分はα。βを簡単に従えることのできる、今の構造を崩したくないと考えている。」 「…そういうことですか。それは仕方がありませんね。」 結局、Ωの扱いなんてそんなものなのだ。しかしアルの仕方ない、という言葉をアランはそれは違うと強く否定する。 「仕方がないなんて、そんなことはない。Ωに産まれたって同じ人間だ。 …俺は、この薬を発表して、この国を支配する理不尽な制度を壊したい。」 同じ、人間。αでそんなことを考える人を、少なくともアランに会うまで知らなかった。 それに。 「貴方はなぜ、リスクを背負って俺たちを助けようとするんですか?」 こんなことを聞くなんて、過干渉だ。仕事に関係ないことは聞いてはいけない。そうわかっていても、聞かずにはいられなかった。 アルはどうしても、彼を危険にさらしたくはないのだ。 たとえそれが彼の意に反していても、この発表が成功すれば世間の自分たちΩを見る目が変わるとしても。 大切だから。彼はアルの頭を撫でる時、理由をそう答えた。それはアルにとっても同じで。 ただどうしようもなく大切で、自分のいないところでもいいから幸せでいて欲しい。今朝ヨルがエレンに来るなと言ったのも、同じ気持ちだったのだろう。 アランは口元を少し緩め、また優しい手つきでアルの頭を撫でた。 その表情は、どうしようもなく悲しげで、アルは聞いてはいけないことを聞いてしまったのだと理解する。 「…すみません。」 「…いや、本当にくだらない理由なんだ。ただ、その話は、今回の件が終わるまで待ってくれないか。」 「承知しました。」 再び沈黙が流れる。 『おいアル、ちょっと外に出れるか?』 トランシーバーからいきなり焦ったようなヨルの声が聞こえてきて、気まずい沈黙を破った。 …何かあったのだろう。 「すぐ出られます。」 『部屋を出て右側に歩いて行くと自販機がある。そこまできてくれ。』 「わかりました。 すみません、少し外に出ます。」 ヨルの切羽詰まった声に、ただ事ではない予感がする。アルはゴクリと息を呑み、指定された場所へと向かった。

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